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「……よし。後は、中をくり抜くように掘っていって……出来た、かな?」
見様見真似の小さな小さな雪の小屋。雪を積み重ねて形を整えるのは予想以上に大変で、ノエルちゃんが入ることができる大きさでやっとだった。
「すごい!ほんとーに雪でお家ができたよ!」
ノエルちゃんがギリギリ入ることができる程の小さな空洞に、それでもノエルちゃんが大はしゃぎだった。
「ね、一緒に入ろ!」
「あー……」
そうしたいのは山々、なんだけど。どう考えても大きさが足りない。
「いや、僕は一緒に入れないかも……」
「ここ、ここ座って!」
まあ確かに、屈んで座れば僕でも中には入ることができる。でもこれだと二人は……。
「ん!」
ぽすっと、ノエルちゃんが僕の膝に座る。
「ね?一緒に入れたよ」
振り返ったノエルちゃんがニッと笑う。……ノエルちゃんに掛かれば、無理なことなんて何にもないのかもなんて、僕はそんなことを思っていた。
かまくらの壁が冷たい風を遮って、ノエルちゃんのコートが柔らかく僕の身体に触れて、こんな極寒の雪の日でもやけに暖かいなと感じた。

出来栄えを訊いているのに、ノエルちゃんの返事は制作の感想だった。でも、出来栄えなんて大して問題じゃないのかもしれないな。二人で何かを作って、その過程が楽しかった。それはきっと、作ったものの完成度以上に大切なものだ。
「でもこれだけ雪があったらかまくらとかも作れるかな……」
「かまくら?」
雪だるまは知っていたのに、かまくらは知らないらしいノエルちゃんがきょとんと訊き返す。円らな瞳を向けたまま、小鳥のように小首を傾げる姿が可愛らしい。
「えーと、雪で作る小屋……みたいなものかな?」
「えっ、雪でお家が作れるの!?」
ノエルちゃんの目が満ちる期待に比例するように輝きを増す。かまくら、か。何となく口に出てしまったけれど、作ったことはないんだけど……。
「上手くできるか分かんないけど、作ってみよっか!」
「うん!」
ノエルちゃんはとても嬉しそうに、元気よく返事をする。さて……勝っては分からないけれど、やるだけやってみようと僕はシャベルを持ち上げた。

1月26日。雪。
「雪だるまを作りたい!」
窓から見える白く染まった風景に目をキラキラと輝かせながら、ノエルちゃんが言った。コートとマフラーと長靴に、手袋をはめてしっかり防寒着を着こんでから外に出る。辺りは一面の銀世界、雪を被った公園の土は、その影を潜めて白粒に覆われていた。
「えっとね、こうやって雪をたくさん集めて、こうやってパンパンってしたら、雪の上を転がすの!」
出不精の僕はロクに雪だるまなんて作ったことがないから、雪だるま作りはノエルちゃんの方が詳しくて、教えを請う僕に解説してくれる得意げなノエルちゃんの姿も愛らしかった。
かためていない雪は存外に粒のようで、ふわふわと手袋の間をすり抜ける。塊にするには、しっかりと叩いてかためていく必要があった。
「一緒に転がそう!おっきな雪だるま、できるかなぁ?」
ある程度球状にかためてしまえば後はラク。雪原を転がしていけば雪玉が雪を巻き込んで、どんどんその形を大きくしていく。
「できた!」
ちょっと不格好ではあるけれど、雪だるまの完成だ。
「ノエル先生、僕たちの雪だるまの出来はどう?」
「うん!とっても楽しかった!」

「ノエルちゃん、これ食べよ」
「……? ……もぐもぐ。……! 甘くて美味しい!」
「良かった」
ノエルちゃん、ノエルちゃんも女の子だから。いつか恋って何なのか、分かる日が、意識する日がくるのかな。そんなことを考えながら食む焼き菓子は、なんだか味がしないように感じた。

「……あれ、恋おみくじしかないのか、今」
「おみくじ?」
「えーっとね、これから1年、どんな年になるのか、神様が教えてくれるのをおみくじって言うんだけど……」
「……ふわぁ、かみさま、すごい!ノエルもおみくじ?見たい!」
「え、いや……まぁ、運勢さえ分かればいいかな……」
そう思って引いてみた僕とノエルちゃん二人の運勢。
「あー……小吉か」
「しょうきち?」
「えっとね、そこまで良い運勢でもないかな」
「……そう、なの。じゃあ、ノエルのは?」
そういっておみくじを開いて差し出すノエルちゃんの運勢は、
「……うん。ノエルちゃんらしい」
「……?」
「大吉、だよ。一番いい運勢」
「……!やったー!」
ぴょんぴょんとウサギが跳ねるように喜ぶノエルちゃん。
「じゃあね、ノエルのだいきちと、しょうきち、わけっこしよ!」
「え……?」
「ノエルの一番すごいだいきちと、しょうきちを分けっこしたら、しょうきちもいいのになるの!そしたら二人ともにっこりできるよね!」
「……そうだね、ありがとう」
「うん!」
それは実にノエルちゃんらしい、とても優しい、優しい提案だった。

噛んで含めるように説明してあげると、ノエルちゃんは聞き分け良くお辞儀する。まずは二拝。
「次は、2回手を叩いて。パン、パン」
「ぱん、ぱん!」
元気よく二拍手するノエルちゃん。
「……神様はね、願いを叶えてくれるって言われてるの。ノエルちゃん。目を閉じて、心の中でお願いをしてみて」
「……え?ノエルがお願いごとを?いいの?」
……ずっと円盤として誰かの願いを叶えてきたんだ。良いに決まってるよ。
「うん。きっとノエルちゃんみたいな優しい神様が、叶えてくれると思うよ」
「……ん」
目を閉じて静かに両手を合わせるノエルちゃん。さて、僕は何を願おうかな。
「……」
縁結び、一言で言っても色々ある。友達、恋人、家族、同僚、親戚……。僕がノエルちゃんと結ぶべき縁は、結びたい縁は、何なのだろう。ノエルちゃんはきっと、ずっと友達でいたいって、そう言うと思う。でも、僕が結びたい縁は……。
「(……そんなことはいい。ただ、ノエルちゃんとこれからも、ずっと一緒に。縁が続きますように……)」
これからとか、どうありたいなんて考えずに、ただ切に、僕はそれだけを願うことにした。

1月2日。今日はノエルちゃんと初詣。天気は雨模様だけど、紅色基調に明るく映えるノエルちゃんの晴れ着が眩しい。素直に可愛い、似合ってるよと褒めてあげると、ノエルちゃんは照れるように頬を紅潮させて、それでも口元を綻ばせてにっこりしながら「えへへ、ありがとう!」と実に嬉しそうに返事をしてくれた。
詣でに来た神社、ご利益は縁結び。恋愛成就を目的に来る参拝客が多い。……僕とノエルちゃんは恋人というには、ちょっと見た目の歳が離れすぎているけれど。
「あー!ノエルもアレ、鳴らしたい!」
参拝客が鈴(本坪鈴というらしい)を鳴らしているのを見て、ノエルちゃんが本殿の前に駆けて行く。
「カランカランカラ~ン♪」
出鱈目に鈴を鳴らすノエルちゃんを慌てて引き留める僕。
「ノエルちゃん、それは神様を呼ぶための鈴だから、用事もないのに鳴らしちゃダメだよ」
「かみさま……?ここはかみさまのおうち?これ、ピンポーンなの?」
ノエルちゃんがピンポーンって言ってるのは呼び鈴のことだ。
「そうだよ。人のお家だから礼儀正しくしなきゃ。はい、お辞儀」
「うん!」

12月31日。大晦日の夜はどこか静謐に、ゆっくりと流れていく。こたつでミカンを食んでいるノエルちゃんもそう言った雰囲気を察してか口数も少ない。いつものように、夜が朝になるだけ。でも、人はその節目に特別な意味を付加していく。幼くて、まして円盤である彼女には理解が難しいことなのかもしれない。でも、
「ねぇ」
水を打ったように静かな空間に、ノエルちゃんの透き通るような声が響く。
「明日もね、明日からも、ずっとずーっとにっこりできるといいよね」
新年を迎えるその意味が解らなくても。その日に何を付与した日なのかを知れずとも。ノエルちゃんはきっと分かっている。その節目に託す祈りを。この先がどう在りたいかという願いを。
「……そうだね」
夜が更ける。大きく変わらない筈の夜明けが、大きな意味と転機、そして変わることのない恒久的で穏やかな日々を願って。
ノエルちゃん、来年は、どんな年になるかな?

クリスマスプレゼントは家庭用プラネタリウム投影機。照明を落として電源を入れると、暗い部屋に星の光を映し出す。
「すごい、天井がお空になったみたい!」
ノエルちゃんのにわかに興奮した声がすぐ隣から聴こえる。はじめこそ無邪気にはしゃいでいたノエルちゃんだったけれど、
「とっても……キレイ」
暗くしただけの部屋、そこに映し出される幻想的な光景に魅入るように、ぽつり呟いた恍惚とした声色が印象的だった。
「……あ、流れ星!」
このプラネタリウムはご丁寧に、数分ごとに流れ星を映す機能まで付いている。ノエルちゃんにこの機能は好評だったようだ。
静かに時間が流れていた。僕もノエルちゃんも、人工物だとしても美しく輝く星の光を眺めていると、
「……すぅ、すぅ」
僕の隣で寄りかかるノエルちゃんの寝息が聞こえてきた。部屋が暗いものだから、眠気を誘ったのかもしれない。
「……おやすみ、ノエルちゃん」
目が慣れてきたとはいえ、真っ暗な部屋を注意しながらノエルちゃんを抱いて運ぶ。ベッドにゆっくりとその小さくて軽い身体を横たえると、
「サンタさん。素敵な贈り物、ありがとう……」
そんな寝言を、微笑みながら漏らしていた

ノエルちゃんがケーキを頬張っている間に、部屋を出る。ノエルちゃんはもちろんそんな僕の動きに気づいていたけれど、トイレにでも行くと思ったのか、あまり気にかけていない。部屋の外、玄関に飾った小さなクリスマスツリーの傍に、戸口に置いておいた鮮やかに包装された箱をそっと置いて、呼び鈴を鳴らす。僕はすぐにトイレに身を隠した。
「ごめんノエルちゃん、ちょっと出てもらっていい?」
僕は個室から声を張って、ノエルちゃんに呼びかけると、小刻みで可愛らしい足音が玄関に行く音が聞こえた。わざわざ水を流しながらトイレから出ると、
「どうしたの、ノエルちゃん?」
「うん……?ピンポン~ってなったけど、誰もいなくて」
とぼける僕に答えるノエルちゃんは、誰もいない外を眺めて不思議そうに首を傾げていた。
「ん~誰だったんだろね?……ん、これ……」
さもこの場で気づいたような演技で、ノエルちゃんの注意をツリーの傍に。
そこにあるものを認めたノエルちゃんの目が、みるみると輝くのが見て取れた。
「今日は、クリスマス・イヴだよね?もしかしたら……」
「「サンタさん??」」
二人の弾んだ声が重なって、僕らは顔を合わせて笑った。

12月24日。クリスマス・イヴ。僕は固焼きのオムライスは作れるんだけど、半熟のオムライスを作るのは苦手だった。でもノエルちゃんに喜んで欲しくて、何度も練習しては失敗したけど、今日はなかなか上出来だ。ノエルちゃん、ふわふわだ~♪って、とっても美味しそうにオムライスを頬張っていた。頑張った甲斐があったな。
ホールのクリスマスケーキ、少食のノエルちゃんは、小さめに切り分けた一切れを食べただけでお腹いっぱいなようで、大分余ってしまったけど。また明日でも、ちょっとづつ食べていこうね

12月23日。さて、今年も準備しよっかな・・・

日付、変わっちゃったね。昨日の日記になっちゃった。ノエルちゃん……は、もう寝てるか。おやすみ、ノエルちゃん……。

12月20日。雨。真冬並みの気候が緩和して、積もった雪を洗い戻すように、雨が溶かしていく。過日、ベランダにたくさん並んでいたノエルちゃんお手製の雪達磨も例外はなく、その形を崩すか、既に溶解していた。
「まだ12月だし、また雪は降るよ。少しの間お別れだね」
「……うん」
分かっていてもノエルちゃんの表情は寂しそうだ。自然は巡って循環する。自然の一部である雪も一時的に溶けて消えるのは仕方がない。また機会はある。僕も、そしてノエルちゃんも薄々分かっていることだ。分かっているけれど、見送る側は少し寂しい。
「……だからさ」
少しだけズルをしよう。詮無い時間稼ぎとお別れの寂しを少しだけ和らげるだけの、ワガママで意味のないかもしれないズル。
でもね、冷凍庫に避難していただけの小さな小さな雪達磨を見て胸を撫でおろしているノエルちゃんを観ていると、こんなズルが少しだけ、意味のあるものに思えたんだ……。

ノエルちゃんは、さも当たり前のように、ニッコリ笑顔を作ってこう言うんだ。
「だって、一緒に食べた方が美味しいから!」
「……ありがとう」
頭を撫でると嬉しそうに笑顔が深くするノエルちゃんのお腹が、子猫の欠伸みたいにくきゅぅと鳴いた。
その日の夕食は、レンジで温められた以上に、温もりを感じるものだった。

12月19日。今日は少し帰りが遅くなってしまった。ノエルちゃん、お腹空かせてるかな?でも、心配には及ばなかった。冷蔵庫には総菜、鍋にはお味噌汁の作り置き、ご飯は予約炊飯で炊きあがり、保温に切り替わっているだろう。電子レンジはノエルちゃんの背が届く位置、使い方も教えてある。僕がいなくても夕食を温めて準備することはできるはずだ。だけど……。
「ただいまノエルちゃ……あ、あれ?夕ごはん、食べてないの!?」
「うん、ノエル、とってもお腹空いた!早く食べたいなぁ」
「ノエルちゃん、レンジの使い方教えたよね?なんで……」
「うん、だから、おみそしる、ちゃんと入れておいたよ!」
そう言ってノエルちゃんが指さすレンジの中には味噌汁の入った汁椀が2つ分。温めた形跡もない。この辺りで、ようやく気がついた。
「……先に食べてれば良かったのに。お腹空いてたんでしょ?」
「……?うん。空いたよ、でもね」