@violet_0519
自分を犯すのは、幽霊なのか、化け物なのか。それとも、何もかも自分の頭の中で創り出した幻なのか知りたかった。
　けれども唐松の身体に覆いかぶさって腰を振っているのは醜い怪物でも、禍々しい幽霊でもなかった。
　視界の端に映るのは、鮮やかな赤色のパーカー。それは自分と同じ顔の──。
　あまりの衝撃に体が強ばる。息が詰まる。思わず悲鳴を上げそうになった。
　繋がっている所の動きから、目を覚ました唐松の動揺と恐怖を感じ取ったのか、遅松は『あーあ、バレちゃった』と小さく笑う。
「起きてんだろ？唐松。つーか、薄々わかってたよな？こーいうことしてんのが俺だって。なあ、そろそろ起きて現実見ろよ。ね、狸寝入りさん？」
　嫌だ、嫌だ。これは夢だ。
　遅松が、自分と同じ顔の、大切な唯一の兄がこんなことをするわけがない。目を覚ましたら、認めなくてはいけない。兄に犯されたこと。兄の手で雌の快楽を植え付けられたことを。
「ほら、目ぇ開けろって。ちゃんと俺を見て。今度は夢じゃなくて、現実でセックスしよ？」
瞼を無理やりこじ開けられる。涙で滲む朧気な視界に、兄の歪んだ微笑が見えた。