こまち @uepam

虫の知らせとは違う。だが何故か行かなくてはいけない気がして、電車に乗った。
大学に入って初めての春休み、俺は何かに呼ばれる様にこの地を訪れた。都会の喧騒とかけ離れてはいるが、賑やかな空気がそこにある。
どこに行くわけでもない。目的もなくただふらふらと梅咲き誇る庭園を歩く。
「こんにちは」
庭園を抜けた先に見えた、大きな桜の木を見上げていると横から声が掛かった。見れば小学生くらいの男の子がこちらを見ている。濃紺の髪に、金の瞳が印象的だ。
「こんにちは」
挨拶を返せば、その子は朗らかな笑みを浮かべた。
「お兄さんは、旅行ですか?」
「ああ」
周りを見渡せど、親らしき人は見当たらない。こんな所に何故子供が。だが不思議とあしらう気にはなれなかった。
「お兄さん」
「何だ?」
「来年も、またこの木の下に来て下さい」
そう言い男の子は踵を返す。その背中に、俺は言い様のない淋しさを覚えた。
「待てっ……」
「また、来年……またね、」
『伽羅ちゃん』。男の子が口にした名前は、どうしてか自分のことだとすんなり受け入れられた。
きっと俺は、来年の今日も電車に乗ってあの子に会いに行くのだろう。