@toichi801
おまえ、だって、どう考えてもおかしいだろ、いや女子だったら世間的にもっとまずかったのかもしれないけど。
男同志でそんな、好きだのなんだのって。
嫌なんだよ、冗談でネタにされたりすんの。
中間テスト三位に入ったら考えてやらんこともないって言ったのは、確かに坂田に対しての意地悪だった。
申し訳ないが、坂田はどう頑張っても3位には入れないとわかってての事だ。
翌日、坂田が猛勉強を始めた、と佐々木馬鹿野郎大先生が職員室で呟くと、皆一様に置き傘を確認し始めたのだった。
窓の外は見事な晴天だったが、土方先生も一応、念の為、折り畳み傘あったかな、とロッカーを確認しに行ったのだった。
そして、金曜日の告白だ。
補習の最中、坂田があんまりも簡単に、せんせ♡すき♡なんて言うんで、何も考えずに、おう先生も好きだぞ、はい次、と応えて次の問いを指差した。
問題を読んだ坂田が
先生、エックス円て何?海外の円? と言うので円は日本だけだぞ坂田、と教えといた。
スマホのアラームが1時間ぴったりで鳴って、ここまでな、と声をかける。
坂田は、俺本気だからね、と言った。
何の話かまじでわからなくて、は?と言う前にほっぺにキスなんぞをされてしまった。
土方十四郎28歳、一生の不覚。
やめろバカと頬を拭うと、坂田は、あ、それ傷付く!!と笑っていた。
それから坂田は事あるごとに好きだと曰うようになった。
やめろ。
授業の度に迎えに来るんじゃない出待ちをするな。
他の先生達も笑ってるだろ。
授業中俺を見つめるな、話を聞け。
だって好きなんだもん♡じゃない。
…わかった、これは逆だな?
俺が嫌いなんだろ、おまえ。
補習の仕返しだろう。
@toichi801
坂田の学年を受け持ったのは今年が初めてだった。
坂田はとにかくまずかった。
口は誰より達者なのに掛け算が7の段からあやしかった。
俺の担当はあくまで数学で、算数じゃない。
しかしまぁこれでうちの高校のランクは察して欲しい。
新学期早々坂田の超特別補習が始まった。
掛け算、理解出来ねえわけじゃねえんだ、覚えてる答えが合ってるかわからなくなるってだけで一先ず安心した。
掛け算忘れんのに足し算引き算がめちゃくちゃ速かった。
そろばんやってたから暗算できんだと。
なんでそれで7の段から怪しくなんだよ、まじで。
放課後の1時間だけ数学(もとい算数)を教えた。数学の教師として、せめてここまでは、と思うところまで。
遠く幼き日、分数が出てきて小数点がついて、式に()がついて出て来たあたりから算数の授業はお昼寝タイムだったようだ。
当時の先生、坂田は今あの頃を取り戻すべく私に鞭打たれております。
土方先生は
坂田か〜坂田な〜…
あいつちょっとバカだからなぁ〜…
1、2を競うバカだぞぉ〜…
なんか頭爆発しちまったんじゃねえのか…あ、頭は爆発してんな…物理的に…中身だ中身…
などと思いながら、いつもよりは幾分ラフな格好で明日の準備をすべく学校(職場)へ向かうのだった。
休日の学校が静かかと言われればそうでもなくて、校庭ではサッカー部が練習してるし音楽室からは吹奏楽の演奏がきこえてくる。
職員室には教員もちらほら。
おや、土方先生、と声をかけてきたのは同じ教科の佐々木先生。
俺、こいつすげえ苦手なんだよ、なんか、全部が。
でも俺、社会人だから。
佐々木先生も休日出勤ですか、お互いゆっくり休めませんね〜なんて仮面のような笑顔を貼り付けて世間話をした。
日常だ。
そして手元に広がる毎授業でやるミニテストの丸付けも日常だ。
偶然だった。
坂田の答案だった。
5問しかないミニテスト、2問間違ってた。
案外字が綺麗だなと思った。
@toichi801 お堅く見える土方先生は大学で偶然知ったゲイだっていう鴨くん(有名塾講師)とヤる仲で、すごい仲悪いしマジで嫌いだし普段連絡なんかとらないけどお互い溜まると2、3時間会う仲なの。
お互い余計な事喋んなっつってチンとアナを使うだけの関係。
付き合い長いから情はあるかな。
恋ではないのだ。
ってか恋ってなんだ。
人間なんて男も女も、結局は溜まれば出したい(女は出ねえけどなんか勝手に濡れたりすんだろ?ローション的な?そら出し入れ簡単だよなぁ、いいよなぁ、まぁ女で勃たねえけど、あ、考えたら気持ち悪くなって来た……)生き物だろ。
なんてことを土方先生が日曜の朝から考えているのは、金曜の放課後一生徒の坂田くんに告白されたからである。
昨日は、ねぇ好きってなんだっけ?思い出せないよ、なんていう女性アーティストの歌を思い出したくらいで、散らかった部屋をおざなりに片付けたくらいだ。
あとはダラダラ発泡酒呑んでた。
@toichi801
別にこのやり方を廃止した方がいいなんて思ってる訳じゃない。
先生達はなかなか覚えられない子に付き合っただろうし、いろんなアドバイスをくれただろうと思う。
言葉が出てこなくなった生徒にきっとエールを送っただろう。
心の中で。
ただそのエール、メモにして持たせたげて、と子供達に甘い私は思ってしまうんだ。
式の後、息子が数人の友人と並んで歩いているのを見て、ちょっとジンときてしまった。
この間産んだばっかりなのにな。
もうこんなにデカいのか。
もっとデカくなんのか。
嬉しいし楽しみだけどちょっとさみしい。
これは学校側はもう少し配慮できないのだろうかと数日経ったいまでも思っている。
練習の時は大体数の子が完全完璧に出来るだろう。
でも当日、もしもの時のお守りの為に皆にメモを持たせるとかさ。
できないもんかな。
カンペOKとまではいかなくても忘れてしまった時、噛みすぎて続けれなくなった時、それがあればだいぶ違う。
卒業式で見たあの子にはステージ上でフリーズして泣いてしまった、という経験だけがいつまでも残るんじゃないかと思う。
それなら多少見た目にかっこ悪くともポッケに忍ばせておいたメモを見て最後まで言えた方がどんなにいいかと思うんだ。
本人達にも見てる人達にも。
我が家ではこの日のビデオはもう封印である。
式の夜、父が匿名で意見の手紙出すかな…とか言ってたけど出すなら私にも一筆書かせてほしいと思っている。
なぜ私がこの事に対して過剰に乗っかっちゃってるのか。
娘がどっちかって言ったらこういうのが 出来ない子 だから。
苦手とかのレベルじゃない。
きっとどもってしまうし、先生に声が小さいと言われてしまう。
ああもう今から私のお腹が痛い。
仕事なんかしたくない(関係ない)。