残暑とはいえ、夕方には気温も下がる。
夕日は美しく明るいが、涼しいを通り越した冷たい風が肌を冷やし、館内へと足も急ぎたす。
途中ちらりと視界に彼の姿が入った。
いつも羽織っているマントもなければ、ベストすら着ていない白いシャツ姿。
寒いだろうに、それすら気づいていないのかじっと中庭を眺めている。
何を見ているのだろうと、勝手に足はそちらへ向かう。
見つめていたのは中庭の池だ。
オレンジに染まった世界で、夕日を写しキラキラと水面を輝かせる。
この時を目に焼き付けているのだろう、見ることの他に意識は向かない。
足音をたてて隣に立っても、なんの変化もない。
それがなぜか、ぢりっと心の端をやく。
しかしそれより、やはり寒そうだと思う。
意識していなくとも体はきちんと働いているようで、わずかながら震えている。
仕方ないなという思いがわき上がり、その肩に手は伸びた。
羽織のなかに抱え込むと一瞬暴れたものの、自分がやったとわかれば直ぐに「なんだ」と大人しくまた、眼前の光景を見つめ始める。
けれど、耳はこの夕日の中でも分かるほどに赤いので、心をやいた火はあっさりと消え去った。