▽ドンヒラオメガバース
▽ドンヒラの間に子どもがいます

「おはようございます」

 朝の挨拶があちこちで飛び交っている。どこかから聞こえる泣き声は、きっとこの前入ってきたばかりのあの子だろう。慣れない場所に一人、母親と離れて過ごさなくてはならない。幼い子は中々の苦行を強いられている。だけど、それは仕方がないことだ。親にだって仕事があるし、休みたい時だってある。出来るなら我が子と過ごしていたいけれど、そうするわけにはいかない事情があるのだから。

「せんせー! おはよー!」
「わ、……っ! おはよう、十四松くん」

 どしん、と小さな塊がぶつかる。私の足に抱き着いたのは、この前三歳になったばかりの十四松くん。黄色の服を着てお日様みたいな笑顔を見せてくれる元気な男の子だ。

「こら、十四松。勝手に一人で行っちゃダメ」
「パパ!」

 十四松くんに遅れてやって来たのは、彼の父親。いつも真っ白なスーツを着ている、職員の間でもカッコいいと有名なお父さんだ。片手で軽々と十四松くんを抱き上げて、デコピンをしている。十四松くんの「あいてっ!」って声が何とも可愛らしい。

望月 栞莉 @shio_lia

「十四松、勝手に行くと危ない」
「…………あい、」
「階段登る時はパパと一緒の約束だったデショ」
「……あい、」
「ごめんなさいは?」
「ぱぱ、ごめんなさい……」
「うん、イイコ。パパも十四松に痛い思いさせて、ごめんね」

 この親子はいつでも仲が良い。根が素直で優しい十四松くんと、子どもを愛してますって気持ちがすごく伝わるお父さん。余程のことが無い限り、登園はいつも決まってお父さんが十四松くんを送っている。手を繋いでいたり、肩車をしていたり、飛行機みたいに持って走っていたり、色んなパターンをよく見かける。実は二週間前までは、お父さんだけではなくお母さんも一緒だった。
 三人で仲良く手を繋いでいたし、肩車をした十四松くんをお父さんの横で愛おしそうに眺めて歩いてもいた。だが、一週間前からお母さんは保育園に来ていない。というのも、お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいたからであって、ついこの間生まれたばかりだった。三千グラムとちょっとの男の子。十四松くんが「ぼく、おにいちゃん!」と大喜びしてたのを思い出す。

「お父さん、おはようございます」
「あ、おはようございます」

「お母さんの具合はいかがですか?」
「特に何事もなく、元気に過ごしてます」
「そうですか。それならすぐに退院出来そうですね」
「はい」

 テキパキと十四松くんのお支度をしていくお父さん。最初の頃はぎこちなかった動きも、今ではスマートだ。十四松くんをトイレへ連れて行き、紙オムツからトレーニングパンツに替え、帽子を被せる。そして、手を繋いで階段を降りていった。十四松くんを園庭に送って行くのだろう。

「……良いなぁ、」

 十四松くんのお父さんは、十四松くんが入園した時からほぼ毎日送迎をしている。こういうのを世間一般では育メンと言うのだろうけど、本来ならやって当たり前のことだ。今はお母さんが来れないけれど、きっと生まれたばかりの妹が落ち着くようになったら、十四松くんを挟んで三人手を繋いで保育園に来るのだろう。
 仲の良い、理想の家族。私もいつかはこんな過程を築きたいものだ。

「みんな、おはよう!」
「とどこせんせー、おはよう!」

 でも今は、可愛いクラスの子どもたちだけの先生でも良いかななんて思っていたりもする。

 あーあ、早く良い人探さなきゃ!