望月 栞莉 @shio_lia

01

 好きになった人は、好きになってはいけない人だった。
 その恋を自覚してから、心の奥底にしまいこんで厳重に鍵をかけたつもりだった。誰にも知られてはいけない。疑いの目すらかけられてはいけない。これは恋なんかじゃない。一種の毒だ。そう決め付けて、無理矢理封じ込もうとした。それなのに押さえ込めば抑え込むほど、溢れ出て来てしまう。恋というのはこんなにも厄介なものなのか。
 松野一松が恋をした相手は、自分の二つ上の兄である松野カラ松だった。少しずつ認められつつある社会とはいえ、まだまだマイノリティな同性愛。その上、義理ではなく、血の繋がった家族が相手だ。この気持ちをうっかり表に出したら最後、自分は生まれてからずっと生活し続けているこの家にも、慣れ親しんだこの赤塚にもいられない。この感情を自覚した瞬間、一松は絶望の淵に叩き落とされた気分になった。
 重たい感情を抱え始めてからというもの、一松は誰にも悟られることなく、それなりに上手く付き合い続けていたつもりだった。路地裏で猫と戯れ、兄弟と過ごし、何でもないいつも通りの日常を送り続けていたはずだった。

その日は特別何かがあったわけでもない、ただただいつも通りの日常に過ぎなかった。一松はいつも通り路地裏で猫と戯れてから帰宅すると、玄関には綺麗に揃えられた一足の靴。世にも奇妙な六つ子の自分達は見た目がよく似ている。見分けを付けるためにそれぞれ自分の色を持ち、一松は紫の色だった。玄関にある靴の色は青。心臓がドクンっと跳ねる。
ーーこの色は、カラ松の色だ。
 忙しなく動き始めた心臓の音が、玄関に響いているのではないかと思うほどに騒がしい。周りに靴なんてどこにもなく、カラ松の靴だけがある。それが何を意味するのかくらい、一松にも分かっていた。うっかり
 今、この家にはカラ松と自分の二人しかいない。ただの家族なら何とも思わないが、カラ松は一松が恋をしている相手だ。何も思わない方が無理な話だと思う。だからといって、ずっとここにい続けられるわけじゃない。もしもこのままで誰かが帰って来たら、自分は相当不審者にしか見えない。意を決して靴を脱ぎ、そのまま自分達の部屋へ。すっと扉を開ければ、そこにはカラ松がソファの上で眠っていた。