望月 栞莉 @shio_lia@pawoo.net

ぱうーさんは壁打ちみたいな感じで使うことになるかなぁ

久々過ぎて仕様が覚えてないんだな……

「お母さんの具合はいかがですか?」
「特に何事もなく、元気に過ごしてます」
「そうですか。それならすぐに退院出来そうですね」
「はい」

 テキパキと十四松くんのお支度をしていくお父さん。最初の頃はぎこちなかった動きも、今ではスマートだ。十四松くんをトイレへ連れて行き、紙オムツからトレーニングパンツに替え、帽子を被せる。そして、手を繋いで階段を降りていった。十四松くんを園庭に送って行くのだろう。

「……良いなぁ、」

 十四松くんのお父さんは、十四松くんが入園した時からほぼ毎日送迎をしている。こういうのを世間一般では育メンと言うのだろうけど、本来ならやって当たり前のことだ。今はお母さんが来れないけれど、きっと生まれたばかりの妹が落ち着くようになったら、十四松くんを挟んで三人手を繋いで保育園に来るのだろう。
 仲の良い、理想の家族。私もいつかはこんな過程を築きたいものだ。

「みんな、おはよう!」
「とどこせんせー、おはよう!」

 でも今は、可愛いクラスの子どもたちだけの先生でも良いかななんて思っていたりもする。

 あーあ、早く良い人探さなきゃ!

「十四松、勝手に行くと危ない」
「…………あい、」
「階段登る時はパパと一緒の約束だったデショ」
「……あい、」
「ごめんなさいは?」
「ぱぱ、ごめんなさい……」
「うん、イイコ。パパも十四松に痛い思いさせて、ごめんね」

 この親子はいつでも仲が良い。根が素直で優しい十四松くんと、子どもを愛してますって気持ちがすごく伝わるお父さん。余程のことが無い限り、登園はいつも決まってお父さんが十四松くんを送っている。手を繋いでいたり、肩車をしていたり、飛行機みたいに持って走っていたり、色んなパターンをよく見かける。実は二週間前までは、お父さんだけではなくお母さんも一緒だった。
 三人で仲良く手を繋いでいたし、肩車をした十四松くんをお父さんの横で愛おしそうに眺めて歩いてもいた。だが、一週間前からお母さんは保育園に来ていない。というのも、お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいたからであって、ついこの間生まれたばかりだった。三千グラムとちょっとの男の子。十四松くんが「ぼく、おにいちゃん!」と大喜びしてたのを思い出す。

「お父さん、おはようございます」
「あ、おはようございます」

▽ドンヒラオメガバース
▽ドンヒラの間に子どもがいます

「おはようございます」

 朝の挨拶があちこちで飛び交っている。どこかから聞こえる泣き声は、きっとこの前入ってきたばかりのあの子だろう。慣れない場所に一人、母親と離れて過ごさなくてはならない。幼い子は中々の苦行を強いられている。だけど、それは仕方がないことだ。親にだって仕事があるし、休みたい時だってある。出来るなら我が子と過ごしていたいけれど、そうするわけにはいかない事情があるのだから。

「せんせー! おはよー!」
「わ、……っ! おはよう、十四松くん」

 どしん、と小さな塊がぶつかる。私の足に抱き着いたのは、この前三歳になったばかりの十四松くん。黄色の服を着てお日様みたいな笑顔を見せてくれる元気な男の子だ。

「こら、十四松。勝手に一人で行っちゃダメ」
「パパ!」

 十四松くんに遅れてやって来たのは、彼の父親。いつも真っ白なスーツを着ている、職員の間でもカッコいいと有名なお父さんだ。片手で軽々と十四松くんを抱き上げて、デコピンをしている。十四松くんの「あいてっ!」って声が何とも可愛らしい。

その日は特別何かがあったわけでもない、ただただいつも通りの日常に過ぎなかった。一松はいつも通り路地裏で猫と戯れてから帰宅すると、玄関には綺麗に揃えられた一足の靴。世にも奇妙な六つ子の自分達は見た目がよく似ている。見分けを付けるためにそれぞれ自分の色を持ち、一松は紫の色だった。玄関にある靴の色は青。心臓がドクンっと跳ねる。
ーーこの色は、カラ松の色だ。
 忙しなく動き始めた心臓の音が、玄関に響いているのではないかと思うほどに騒がしい。周りに靴なんてどこにもなく、カラ松の靴だけがある。それが何を意味するのかくらい、一松にも分かっていた。うっかり
 今、この家にはカラ松と自分の二人しかいない。ただの家族なら何とも思わないが、カラ松は一松が恋をしている相手だ。何も思わない方が無理な話だと思う。だからといって、ずっとここにい続けられるわけじゃない。もしもこのままで誰かが帰って来たら、自分は相当不審者にしか見えない。意を決して靴を脱ぎ、そのまま自分達の部屋へ。すっと扉を開ければ、そこにはカラ松がソファの上で眠っていた。

01

 好きになった人は、好きになってはいけない人だった。
 その恋を自覚してから、心の奥底にしまいこんで厳重に鍵をかけたつもりだった。誰にも知られてはいけない。疑いの目すらかけられてはいけない。これは恋なんかじゃない。一種の毒だ。そう決め付けて、無理矢理封じ込もうとした。それなのに押さえ込めば抑え込むほど、溢れ出て来てしまう。恋というのはこんなにも厄介なものなのか。
 松野一松が恋をした相手は、自分の二つ上の兄である松野カラ松だった。少しずつ認められつつある社会とはいえ、まだまだマイノリティな同性愛。その上、義理ではなく、血の繋がった家族が相手だ。この気持ちをうっかり表に出したら最後、自分は生まれてからずっと生活し続けているこの家にも、慣れ親しんだこの赤塚にもいられない。この感情を自覚した瞬間、一松は絶望の淵に叩き落とされた気分になった。
 重たい感情を抱え始めてからというもの、一松は誰にも悟られることなく、それなりに上手く付き合い続けていたつもりだった。路地裏で猫と戯れ、兄弟と過ごし、何でもないいつも通りの日常を送り続けていたはずだった。

一カラ【ただ隣で寄り添い続けたい】
▽ 望んだ結末が訪れなくても、それでも、ずっと……。

一松の恋人は実の兄だった。
まだまだ受け入れられない同性の恋愛に、血の繋がった兄弟が相手の近親相姦。決して誰にも言えない関係だが、それでも二人は幸せなはずだった。
そんな幸せに綻びが見え始めたのは、兄弟の一言。

「……でもさ、これが現実だったらドン引きだよね」

自分達の関係は間違いだったのかもしれない。そう悩み始める一松は、デカパン博士の元を訪れる。

「……過去をやり直す薬、ない?」

カラ松と恋人になった現実を消してしまえば良い。
そうしたら、恋人を得て、結婚して、子どもを産んで……そんなありふれた幸せを彼が手に入れることが出来るのなら。

「過去をやり直す薬はないダス。だけど、過去を繰り返す薬ならあるダスよ」

現在が変わってしまうために、過去をやり直すことは出来ない。けれど、過去を繰り返すことは出来る。もしかしたら、未来を変えるヒントが得られるかもしれない。

「それ……おれにちょうだい」

そんな願いを抱いて、一松は過去を繰り返す決意を固める。

基本的に壁打ちとかになるかと思いますが……