(掌編)ふさわしいのは
長時間の式典で疲れ果てた。ようやく自室に戻ってきて、すぐに休もうとした。しかし、神経が高ぶっているのか、寝付けない。ベッドから出て、ガウンを羽織る。そっと部屋の扉を開けて、廊下に誰もいないか確かめてから、出る。人に出会わないことを願いながら、暗い廊下を進む。階段を降り、また廊下を進み、中庭へ続くドアを開けた。夜の清らかな空気が肌に触れる。見上げた紺色の夜空には、満月が強い光を放っている。月の周りに星を探した。小さな光が、いくつか見えた。
「アレクシス様」
背中から声を掛けられて、体をびくりと震わせてしまった。
「眠れないのですか?」
「そう。まだ仕事してたの?」
アメリアはメイド服を着ている。宴の後片付けが終わらないのだろうか。
「はい。人影が見えましたので」
「見つかってたか」
笑ってごまかそうとしたが、彼女は真面目な顔を崩さない。
「私は、わかっています」
「うん」
僕の思いは、彼女に見透かされている。戴冠式の間、ずっと考えていたこと。
「本当に王冠を戴くべき人物が、誰であるかを」
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