ロクエヒロアキ @rokuehiroaki@pawoo.net

【0020】立方体 Show more

【0019】 Show more

【0018】 Show more

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【0015】 Show more

「アンディとフランク」の元ネタは、もちろんこちら yowapeda.com/ になります。

【0014】アンディとフランク Show more

【0013】(再掲) Show more

【0012】ひかるけむり Show more

【0011】 Show more

【0010】 Show more

【0009】 Show more

【0008】

 バスを降りたあなたは、珊瑚を路面にならべている子供たちの脇をすり抜けると、足早に別荘地を目指して歩きはじめる。がらんとしたレンタサイクル屋の前をとおり、路上に駐められた車を抜き去り、あなたの鞄のなかでは、免許証と、冷たいマンゴジュースが入ったタンブラーが揺れている。
 あなたの掌のなかでiPhoneが五度ほど振動する。あなたはいらいらしながら、紫色の二酸化炭素をすっすっと吐き出す。あなたの長い髪が、空気の熱と絡まって、頑丈な三つ編みになる。
 ふいに野太い腕をもった風がやってきて、タマリンドの木を揺すると、太陽がびっくりしたように逃げて行って、夜がやってきた。とっぷり暮れた空を見ながら、『ああ、面接には、もうこれで間に合わないだろう』、そう考えてあなたは絶望する。

【0007】

 つづきのない本を読んでいる。つづきがないのだから当然おわりはない。おわりがないだけではなく、はじまりもまた、なかったように思う。つまり、いつからこの本を読んでいるのかわたしにはわからない。いつまで読みつづければいいのかもわからない。本を置いた瞬間に、どこからどんなふうにして読んでいいのかわからなくなってしまうように思う。なにせはじまりもつづきもおわりもない本なので。読むのをやめてしまうのが惜しいくらいにはおもしろい本なのだ。ページをめくる指が止まらない。

【0006】

 雨上がりのにおいにまじって虹が生まれると、いったいどこから嗅ぎつけてくるのだろう、それに群がる透明な小鳥たちがいた。すべての禽がそうであるように、小鳥たちはみな、肉食系の性悪な顔をしていた。事実、小鳥たちは、虹のうろこを啄ばみ、その肉を引き裂いてはのみこみ、舌鼓を打ってはまたどこへともなく飛び去っていってしまうのだ。斯様な事情によって、虹というものはすぐにこの世から消えてしまう次第であった。
 あるときひとりの人間が虹の袂を発見した。彼がそこを掘り起こすと、虹の頭が現れた。頭はしばらくのあいだは眠たそうな顔を隠そうともしないで人間を見ていたが、やがてゆっくりと鎌首を擡げると、ものすごい勢いで自分の体の輪郭をむしゃむしゃと食べている小鳥たちに向かっていき、それらを一網打尽に飲み込んだ。虹はげっぷをすると、ゆっくりとその体を引きずっていき、すぐ近くにあった湖のなかへと消えていった。
 以来虹はずっとそこに隠棲し、あのうつくしいグラデーションを人間たちが見ることは、もはやない。

【0005】

 空からたくさんのピーマンが街に降ってくる。ぼくたち子供は、おちょこにした傘でそれを受け止める。下味をつけてよく捏ねたひき肉を、半分に切ったピーマンの中に詰めると、街の一番バッターのサリンジャーさんにたのんで、空に投げ返してもらう。次の次の季節がめぐってくると、こんどは脳みそがぎゅっと詰まったよく火の通ったピーマンの肉詰めが降ってくる、というわけなのだ。こんな賢い取引を考えたのは、いったい誰だろう。少なくとも、ピーマンでないことは確かだ。だって、あいつらはここだけの話、頭のなかみがからっぽだからね。

【0004】

 ああ、まただ。

 ……同性に恋をするたびに、決まって繰り返される問いかけがある。それは、「色とりどりの風船を、すべて自分の手で割ってしまうのか。それとも、結わえ付けられた紐から手を離して、空へと見送ってやるのか」というものだ。
 この問いかけからも明らかではあるが、不思議なことに、「かなう確率が限りなく低い恋」の主導権は、いつでも恋をされたほうではなくて、恋をしたほうが握っているように感じられる。なにもかもを自分で決めなくてはならない。それとも、それはただ単に、「この世でぼくはたったひとりしかいない」という問題の裏返しにすぎないのだろうか?

 何処までもどこまでも晴れた空に目を細める。目を閉じる。目を開く。
 それでも、色とりどりの風船を一度でもこの目に焼き付けられたことは、確かな幸福なのだ、と思いながら。

【0003】

 壁に架けられた、絵のような世界。冬の日の心臓のように、すべてのものが息を殺している世界。それはそれでひとつの幸福だったのに、山盛りのいちごを砂糖漬けにしたのが間違いだった。いちごといちごシロップの境界線は徐々に肥大してゆき、ひとつのヴァギナを象る。「いちごが崩れ落ちる」だなんて、なんというメタファーだろう。おさない少女は母になり、母は子を産み、そこから世界のひりつくような崩壊がはじまる。

【0002】

 世界中のどこにでもあるようなコンビニで、わたしはチュウブを探している。ひとくちにチュウブと言ってもしょうがのチュウブなのか歯磨き粉のチュウブなのかはわからない。店のなかをさんざん探し回ったあげくに、レジ横の什器のなかにみっしり詰まっているのを発見する。おそらく、季節ものなのだろう。店員の顔も見ずに受け取る。
 コンビニを出たわたしは、家に着くのも待ちきれずに、すぐにそのチュウブから、チュウブの中身状のものを押し出す。チュウブの中身状のものはこなみじんにした水晶を水あめ系のねばりで溶いたものでできていて、舌に載せるとほのかに熱い。そのわりには儚く、「みるみるうちに」などと言う余裕もなく溶けてしまう。わたしはむちゅうになってチュウブの中身状のものを舐めつづける。そうすると、すぐにチュウブはからっぽになってしまい、世界中のどこにでもあるようなコンビニの煌々としたあかりに照らされて、わたしはかなしい。