」
「あーん」
「あ、あーん……っ」
私が口を開けると、 アイスが口の中に運ばれてきました。
満けるような甘味が広がって、 私は幸福感に包まれます。
「ふふっ、美味しい?」
「美味しいでひゅう………」
久さんと一緒に深夜のコンピニなんて行くんじゃありませんでした。
こうなることは予想できたはずなんです。でも、私は止めなかった。
心のどこかでこうなることを期待していたんです。
こんな遅くに食べるアイスクリームは、 罪の味がしました。
太っちゃうのに、こんなのダメなのに……。
こうして私は、まんまと堕ちてしまったんです。
「ねぇ……咲。一緒に堕ちましょう?」
「ねえ………咲。一緒に堕ちましょう?」
久さんは涼しい顔をして言いました。
季節は夏。クーラーをつけたばかりで蒸し暑い部屋は、私の判断力を鈍らせます。
蝉の声がうるさい昼間とは違う、静まり返った夜。もうすぐで日付が変わってしまう深夜でした。
ダメ、こんなことダメだって分かっているのに。
拒否しよう、こんなことダメだって言おう。 そんな考えは、頭の中に浮かぶばかりで口から出ることはありません。
すぐに拒否できなかった時点で、 私の負けは確定していました。
「分かっているんでしょう? もう戻れないって。 私と咲は同類なのよ」
悦に浸っているような表情で、 久さんは私を誑かします。
私はごくりと喉を鳴らして呼液を飲み込みました。 正常な判断なんて、 できなくなっていました。
そんな、一瞬の綻びを、 大きな大きな隙を久さんが見逃すはずもありません。
「ほら、咲──」
た?
間違いない。私、部室で寝ぼけてた……!
後悔と羞恥が一気に押し寄せてきて、私は顔を両手で覆った。
「あぁあぁぁ…………っっ」
なんてことをしてしまったのだろう。なんで、なんで……。
「おはよう、咲」
優しそうな、声がする。お姉ちゃんでもお母さんでもない、部長の声だ。
「はい……おはようございます……」
恥ずかしすぎて顔が見れない。穴があったら入りたい……。
「あと五分、寝る?」
「起きます…………ごめんなさい…………」
「ふふっ、分かった。じゃあ早く支度して? あとは私たちが出るだけだから」
みんなに見られなくてよかった……。いや、全然良くないよぉ……。
今月家賃払いました?
「……き。……咲……。起きて……?」
声がする。私の眠気を妨げる声がする。
お姉ちゃんかな。お母さんかな。
布団はこんなにも暖かくて、気持ちいいのに、なんで邪魔をするんだろう。
「んぅう……っ」
眠りから覚めたくなくて、私は布団を被り直すと逃げるように身体を横に向けた。
「咲ーー」
身体を揺すられる。ふわふわした感覚がだんだんと消えていく。
「あと五分だけでいいからぁ……」
抗議するように私は言う。
あと少し、あと少しだけ……。と、現実逃避していたところで、ふと気づく。
なにか、忘れてる気がする。あれ、ここどこだっけ。私は寝る前なにをしてたんだっけ。
薄く目を開けるとそこは自室ではなく、学校の──清澄高校麻雀部の部室だった。
思考が一気に現実に戻る。バッと身体を起こすと、隣にいた部長が「わっ!?」と驚きの声を上げた。
い
ですが、私には無理なのです。選べないのです。どちらか一方だけというのは。これは、相手が真屋由暉子だろうと本内成香だろうと同じことであります。
なぜ好かれるような言動をしてしまったのか、過去の自分を恨むばかりです。もし過去に戻れるのならば、私は一人でひっそりと暮らすことでしょう。それくらいの後悔が、背中にかじりついておりました。
私は逃亡者でありました。
重責に耐えられず、逃げ出してしまったのです。
二人には、大変申し訳のないことをしたと考えています。
ですが、こうする他なかったのです。二人の関係を悪くしないようにするためには、ヘイトを自分に集める他なかったのです。
バスの外には雨が降っていました。
どうか、どうか──私のいない世界が平和でありますように。
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