工藤の機嫌が悪い理由②
「黙りってズルくねぇ?」
苛立ちから「なぁ、名探偵」とわざと怪盗の雰囲気を漂わせながら呟いた。その直後、唐突に重なった唇に次に用意していた言葉も思考もすべてを浚われてしまった。そして極め付きが。
「黒羽が足んねぇ」
これだ。勘弁してくれよ。つまりは、あれか。確かにここ一ヶ月、俺も工藤も忙しくて会うどころか声すら聞けなかった。その現状と工藤の言動を考えると答えなんて明白だろう。それを理解すれば俺がすべき行動はただ一つ。俺だって。
「俺も。工藤が全然足んなくて死にそうだった」
今度は自分から口付ければ、工藤の唇が薄く開いていてることに気が付いた。そんな恋人の可愛いおねだりに黙っていられる男はいるだろうか。否、いるわけがない。俺はじわりと下腹部から込み上げてくる熱をもて余しながら、今か今かと待ちわびている赤い果実に遠慮も戸惑いも、理性すら投げ出して欲望が赴くままに喰い付いた。
工藤の機嫌が悪い理由①
ばたん、と響いた騒音に目を丸くしながら振り向くと扉を閉めたときの手はそのままに、工藤が睨み付けるように俺を見ていた。その眼光の鋭さは犯人を追い詰めるときのそれで、勝手に喉がひくりと引きつった。
「く、くどう?」
いつの間にか口内の水分はカラカラで。それでも何とか絞り出した声。それを合図に工藤は一言も返事をすることなく、無言でこちらに近寄ってくる。はっきり言って、とても怖い。何をやる気だ、名探偵。
「工藤さん?」
「うるせぇ」
取り敢えずもう一度、と呼び掛けてみると漸く反応が返ってきた。ただし、あまりにも理不尽な言葉と胸ぐらを掴まれる暴挙を伴って、という注釈付きだが。
「おいおいおい! 急に何なんだよ!?」
訳が分からない。こんなことされる覚えは――……少しはある、がそれでも問答無用とは酷すぎやしないか。弁明の余地くらいあってもいいだろう。そう思うと困惑は徐々に腹立たしさへと移り変わっていき、俺はムッとした表情で工藤の手首を掴んだ。そのとき、目の前の体が揺れたような気がするが知ったことではない。久しぶりに触れた体温にはやる心臓を押さえ付けながら挑発するように笑った。
快新文字書き/妄想ばっか/18↑