酷い人ね。
少女は、打って変わってはっきりとした声色で言った。
「分かってます。どうにもなれないことも、迷惑なことも、分かってます。けど、今日は、本当にごめんなさい。今日だけは」
今までよりもそれを少しだけ高く、私に近づけるように上げた。
「言葉にはしません」
「…そう、だね。うん。今日はそういう日だ」
手を伸ばした。丁寧に少女の手から受け取る。
少女の顔がぱぁと輝いた。あまりに分かり易い反応に笑みが零れてしまいそうだったが、愛想笑いを貼り付けたまま、
「これは、一生徒からの一教員への日頃の感謝を込めた労い、ということで受け取っておこう。私は随分と君に甘いんじゃないかと校長からも注意されたことがあってねぇ。然し何せ紅葉くんのツテで昔から知っているものだから、つい近しくしてしまうんだよ。君もわかってくれていると思うけれど」
その言葉達を聞いた彼女の顔はさっきと一転。やっぱりかと言わん様な重たい色に変わった。
「だから今はそういう事にしておくよ。今はまだ 私も言葉にはしないでおこう。今はまだ、ね」
そう言うと少女は苦々しく笑って、
「…今はまだ、ですか。えぇ、そうですね
全く貴方は、」
この程度の重さでへばるなよ、男の子だろ?