学園祭新快?4
複数のプレイヤーとプレイヤーが火花を散らす、マルチプレイヤーゲームだ。
「みなさん、お静かに!」
会議の会場となっている教室の喧噪が、ぴたりと止まる。響いた声にはその力があった。
俳優のように張りがあり、滑舌のはっきりとした美声。
教壇の上に、声の主がいる。
「学園祭実行委員長を務めさせていただくことになりました、工藤新一です」
おお、と声の主の名乗りに教室がざわめいた。
おいおい、と快斗の中にツッコミが浮かぶ。
おまえ、オレと同じ一年生じゃねえか、とか、なにやってんだよ名探偵とか、そんな言葉が。
しかし、それが声になることはなく、快斗の口元には大きく笑みが浮かんだ。
怪盗をやっていたときと同じ、不敵な笑みが。
ばちりと、教壇にいる男と目があった気がした。
学園祭新快?3
怪盗にとって、敵対者たちの動きは明確だ。彼らの目的は、怪盗の目的を阻み、捕獲すること。そのために、彼らが最善と考える動きをする。また、彼らははっきりとした指揮系統を持っていることがほとんどだ。その合理性は、怪盗にとっては予測しやすいものだった。気をつけなければいけないのは、そこに生じるイレギュラーだけと言っていい。突発的な自然現象や事故、新たな警備方法や怪盗を別の目的で利用しようとする者たち、そして、単独で怪盗を付け狙う探偵を警戒しておけばいいのだ。
しかし、ここは違う。ここに集う学生たちの目的は、学園祭の成功だ、と単純化することはできない。
彼らは様々な思惑と目的を持ってこの場所にいる。
だから、自らの目的のためには、彼ら一人一人を見定めなければいけない。怪盗のように、遥か上空から群衆を見下ろすようにはいかないのだ。バラバラに動く彼らの流れを見なければ。
その中でも注意すべきは、彼らの流れを制御しようとする者たちだ。
彼らは、快斗と同じくプレーヤーである。
このゲームは、怪盗が挑んだ孤独な戦いではない。
学園祭新快?2
高校のときにも似たようなことを決行したことがある快斗だが、そのときは幼なじみを始めとするクラスメイトたちの協力があった。そのときと比べ、入学して一か月現在の快斗に協力者は皆無だ。しかも、学園祭で大々的な注目を浴びたいという考えのもと、快斗は人前でのマジックを封じていた。全国から学生の集まるこの大学で、今、快斗は目立たぬ一学生に過ぎないのだ。うっかり主席を取って目立ったりしないよう、入学試験でも手を抜いたくらいだ。
──マジックを封じているのには、もう一つ理由があるけれど。
ともあれ、黒羽快斗の目的はもう決まっている。出し物の検討や、展示場所の取り合いはまだ行われないけれど、ここで、見定める必要があるのだ。
目的を達成するには、どう動くべきか。
高校時代を確保不能の怪盗として過ごしてきた快斗にとって、簡単なミッション──とは、言い難い。
学園祭新快?1
──さて、今回のミッションは。
黒羽快斗は、会議に出席していた。五月も終わろうかという土曜日のことだ。
十一月に開催される学園祭に向けて、実行委員会が発足したのはつい先日。出し物や展示の中心となる各サークルは、ようやく新入生を迎え入れたばかり。新たにサークルの中心となった二回生、三回生たちもまだまだ不慣れな中で、第一回学園祭準備会が開催されたのだ。
この会議への出席に資格はない。実行委員会はまだまだ人員を募集中だし、学園祭の出し物は、サークルに留まらず、全学生に認められている。
黒羽快斗はこの学園祭でやりたいことがある。個人によるマジックステージだ。
しかし、ちょっと調べただけでも、それは中々に困難なできごとであるようだ。
日本一の難関大学として知られるこの大学は伝統も日本一だ。決まりごとに通例、しがらみやらが山のようにある。それに照らし合わせて見れば、どこのサークルにも所属していない一年生が立った一人で、講堂、あるいは屋外のステージを一定時間占有するという通例は見当たらないようだ。