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(-ω-っ)З(22) 

「おじさん、レオの気持ちも汲んでやれよ」
「レオにだって譲れないもんがあるんだよ」
「いや君ら、レオの一体なんなの?」
 口々にスティーブンを批難する子供らに半眼で返し、それから大きな息を吐いてレオナルドを見た。
 実質レオナルドを強制的に動かすのは無理なので、今は諦めるしかない。
「……わかったよ。君はここで、好きなだけ張り込んでなさい。気が変わったら帰っておいで。僕は今からバーガーで昼食だ」
 それだけ言って手を振り、背を向ける。スーパーをそのまま出て宣言通りにバーガー屋に行って昼食を買い、いつも使っている公園のベンチに向かうと、そこにはすでにレオナルドがいた。
「……………………………………………」
 言いたいことは色々あるが、スティーブンはまた大きな息を吐いた。

(-ω-っ)З(21) 

「レーオー?」
 クラウスがレオナルド捜索の時間をくれたということもあり、自然にスティーブンの声も低くなる。
 春風モードまでは行かないが、その一歩手前だ。それを察したらしいレオナルドの顔が僅かに白くなったが、頑固な彼はそれで思い直すことはなく、ころりと仰向けになってスティーブンに腹を見せた。
 一体何を、と思ったが、レオナルドはそのまま前肢をぱたぱたと動かし、尾ひれまで上下させて床を叩きつつ声を上げる。
「や~~~~~~~~!!」
 どうやら駄菓子を強請る子供を見て、新たな技を習得したらしい。が、クラウスなら降参しただろうが、スティーブンは違う。
 スティーブンはすっと立ち上がり、両手をスラックスのポケットに突っ込んで、無表情になった。
「レオ?」
「!!」
 途端にレオナルドがびくりと震え、前肢と尾ひれの動きを止める。そして、元通りに腹ばいになった。
 これで持ち帰られるか、と思ったが、重量は変わっていなかった。
「レオ……あのなあ……」
「や!」
 頑ななレオナルドと渋面になるスティーブンを見て、事の行方を見守っていた子供らが声を出す。

(-ω-っ)З(20) 

 デンタルケア用品が置かれているブースに行き、しかしレオナルドとて真っ先にここに来るだろうから、既に『次』に行っているだろうと諦め半分で頭を巡らせる。
 ――と、いた。癖毛に糸目のツートンカラーアザラシが、棚の影に普通にいた。客として来ていたのであろう子供数人に、棒でつつかれている。
「レオ――!?」
「む」
 見付かったか、とでも言いたげに眉間に皺を寄せるが、通路の隅にいようとそれなりの大きさがあるレオナルドなので、発見されて当然だ。
「レオ、本部へ帰るぞ!」
「や」
 子供達を追い払ってから、スティーブンがレオナルドの前に片膝を着いて言うも、レオナルドは首を振る。力づくでも、と持ち上げようとするが、重くなっていてスティーブン一人では持ち上げられない。手が切れる程の硬さではないが、レオナルドの怒りの度合いを表すように、硬度も増していた。
「レオ、気持ちはわかるが、君一人じゃどうにも出来ないだろ? 僕らと連携を取って動かないと……」
「やっ!」
 笑みを浮かべながら説得するも、先よりも強い拒否が来た。
 
 

(-ω-っ)З(19) 

 ヘルサレムズ・ロットだけでも、子供向けの歯磨き粉を取り扱っているスーパーやドラッグストアがどれだけあるか。それを考えると、スティーブンの肩も落ちる。
 しかも、あのアザラシはその気になればいくらでも瞬間移動が出来る能力持ちだ。唯一の弱点は『誰かか何かの視界に入っていると動けない』ことだが、それも視界を操る『神々の義眼』を持つと、正に無敵。だから、すれ違いがあって当然の捜索になる。
 ともあれ。
「まあいい。僕はまず、クラウスがいつも行くスーパーを始め、手近な店から回って行く。君は取扱店のリストアップからやってくれ」
『承知致しました』
 スティーブンが気を取り直して指示を出すと、青年は了承の声を発してから通話を切った。

 普段の買出しに同行しないスティーブンでも、クラウスが普段どこで買物をしているかくらいは知っている。
 なので、十五分後にはスティーブンは、とあるスーパーマーケット前にいた。

(-ω-っ)З(18) 

 レオナルドの捜索を後回しにしたのは、少年レオナルドをライブラメンバーとして扱っただけであって、アザラシレオとてそうだ。アザラシレオが『ペット』だったなら、同時並行で探す選択を採っただろう。『同志』として認めているからこそ、一般市民の安全を優先した。
 とはいえ、それは『ライブラの参謀』としての建前であって、スティーブン自身は少年レオナルド達を案じていないという訳ではない。クラウスはそれを見抜いて、ザップらがいなくなってからボスとしての指示を出してくれたのだろう。尤もらしい説明付きで。
 ここまでお膳立てされて、断る訳にもいかない。という訳で、スティーブンは一人本部を出ると、私設部隊をの青年に電話をかけた。
『バーガーの買出しですか?』
「残念だが、そのバーガーをやる相手が消えたんだ」
 スティーブンが半眼で言うと、少々気遣わしげな声が返される。
『……家出とか?』
「それならまだ良いんだけどね」
 嘆息しつつ経緯を話すと、青年は数秒だけ無言になってから、提案して来る。
『では、まず例の歯磨き粉を売っている店を見て回るということで』
「そうなるよなー」

(-ω-っ)З(17) 

 ともあれ。
「幸か不幸か、レオはその気になれば自分の身は自分で守れる上、少年の能力も使うことも出来るから心配は無用。我々がまずすべきことはレオの捜索ではなく、卑劣かつ愚かなテロ行為を仕掛けた輩の特定だ。君達は歯磨き粉の工場スタッフからメーカーの社長まで、とにかく歯磨き粉の製造に関わる人間を隅から隅まで、とにかく調べまくれ! 僕とクラウスは、ドラッグの流通ルートから攻めて行く」
 スティーブンが声を張り上げると、同志達は揃って頷いた。

 事務所にはスティーブンとクラウス、そしてギルベルトだけになると、クラウスはそっと言って来る。
「スティーブン。ドラッグの調査は私とギルベルトで、ロウ警部補と連携しつつ進めて行く。君はレオを探してくれ給え」
「おいおい」
 スティーブンが苦笑すると、クラウスは真剣な顔をする。
「ドラッグの存在に気付いたのは、レオナルド君が最初だ。であれば、彼の『神々の義眼』が何がしかの助けになることは間違いない。彼らも我々の同志なのだから、一刻も早く合流すべきだ」
「………………」
 スティーブンは数秒だけクラウスを見返してから、息を吐いた。

(-ω-っ)З(16) 

 物が子供向けとあってK・Kが眉を顰めたので、スティーブンは彼女に顔を向けて言う。
「既にダニエル・ロウ警部補には連絡済みだが、幸い被害者の報告や通報はゼロだ。これは予想だが、発売された全ての歯磨き粉に仕込まれたのではなく、愉快犯によってごく一部の商品に混ぜられたと見ていいだろう」
 スティーブンの台詞にK・Kがほっと息を吐くが、子供が被害に遭う可能性があるからか、鋭い眼光は失せなかった。
 クラウスもK・Kを見て小さく頷き、続ける。
「スティーブンによると、現物を見た際にレオナルド君は異変に気付いたような発言をしていたそうだ。『神々の義眼』の能力だろうが、レオが彼を連れて消えたのも、その辺りが理由だろう」
「レオ君達は、犯人を捕まえようとして脱走した、という訳ですか」
「だろうな」
 今度はツェッドが手を挙げて発言したので、スティーブンは頷いた。
 人語を解す知能があっても、それは人間で言うと幼児レベルだ。
 そして、アザラシレオには子供らしい正義感も備わっているので、そう考えるのが妥当だろう。

(-ω-っ)З(15) 

 ライブラの主要構成員に召集をかけると、外出していたツェッドは勿論、ザップやチェイン、K・Kが揃う。
 彼らを前にクラウスと並んで立ち、スティーブンは声を上げた。
「一時間前になるが、アザラシの方のレオが少年レオを飲み込んで脱走した。目的地は不明だが、原因は新発売の子供向け歯磨き粉・チョコレート味だ」
「じゃあ、陰毛海獣が腹を空かせて戻るのを待てば良いんじゃないっすか?」
「レオの家出だけならそれで良いんだが、そうも言ってられない」
 挙手をして意見を言って来るザップに返したところで、ギルベルトがメンバーに成分調査結果のコピーを渡す。
 全員が目を通し、やはり顔色を変えた頃合を見計らって、クラウスが声を上げた。
「その成分表は、レオが飲み込み錯乱した後に排出された、歯磨き粉のものだ。見ての通り、常人が0.0001gでも接種すると生命に危険を及ぼす、純度の高いドラッグが含まれていると分かる。私が購入したのは街中のスーパーなので、同様のものが世間に流通しているとなると、由々しき事態であることは間違いない」

(-ω-っ)З(14) 

 スティーブンが身を乗り出して叫ぶように言うと、クラウスは大きく頷く。
「レオの種族自体謎が多い為、ケースバイケースということもあるだろう。が、恐らくレオが外に飛んで行った時には、既に身体は平常に戻っていたと見るのが自然だ」
「でも、少年を飲んだのは……」
 スティーブンが懸念を口にすると、クラウスは小さく息を吐く。
「レオからすれば、レオナルド君は一番の友人だ。危険な目に遭わせるつもりはなく、それなりの理由があったのだかもしれない」
「『神々の義眼』の力を借りたかった、とも考えられるな」
 スティーブンがマグカップを持ち上げてコーヒーを飲みつつ言うと、クラウスは頷いた。
 そこにギルベルトが戻って来、クラウスに一枚の紙を手渡す。それを一瞥し、クラウスは顔色を悪くした。
「例のやつの成分か?」
「ああ……」
 スティーブンが問うと、クラウスは紙片をスティーブンに渡して来る。それを受け取って目を通すと、スティーブンもクラウス同様に顔色を変えた。

(-ω-っ)З(13) 

 とはいえ、レオナルドの種族は基本食事を必要としない。空気中の微生物を取り込んで糧としているのだから、全て生命維持に使用され、残りカス、つまり排泄物を出すこともないと思っていたのだ。
 だからスティーブンもその辺りに言及したこともなかったし、それはスティーブンに限らない。一方クラウスも、事実を知っても『生物だから当たり前』とあえて言わなかっただけだ。
 これをスティーブンが言うと、クラウスは頷いてから訥々と話す。
「これは想像だが、彼らが生きるのに必要な食事……つまり『空気』以外に敢えて何かを与えた場合のみ、ああいった形で排出するのだろうと思う」
「想像とはいえそこまでわかっているなら、何で今更調べさせるんだい」
 クラウスがギルベルトに出した指示を思い出し、スティーブンが当然とも言える疑問を発すると、クラウスは紅茶を一口含んでから答えてくれた。
「私もつい先刻まで忘れていたが、レオの種族の特徴を思い出したのだ」
「?」
「何でも食べ、何も食べない。そして……毒など己に害を為すものが身体に入った場合は、それのみを『排出』する」
「――歯磨き粉か!」
「うむ」
 

(-ω-っ)З(12) 

 ギルベルトがクラウスの指示で席を外しているので、クラウスは自ずから紅茶を淹れ、スティーブンも自分のコーヒーを準備する。
 窓硝子の一部は割れ、壁のあちこちにはひびが入り、先程は気付かなかったが観葉植物の鉢もいくつか倒れている。
 それでもそれらを置いてソファに座ったのは、レオナルドの件を優先して片付ける為だ。とはいえ、鉢だけはクラウスが起こした。
 腰を落ち着けたクラウスは、何故か一見関係ないことを口にする。
「私も最初は、アレが何なのかわからなかったのだ。温室の土部分の上に落ちているのを、幾度か発見しただけだったから」
「ふうん」
 混乱した状況下なので、スティーブンも相槌を打つ。それにクラウスも頷き、続けた。
「しかし、レオが温室に出現した後にアレが残されていることに気付き、もしやと思って土に埋めてみると、合成肥料以上の植物育成の成果が出た」
「君がレオナルドを買ったときの説明は、あながち噓じゃなかったってことか」
「そもそもレオも生物なのだから、当たり前のことだったのだが、思い至らなかった」
「まあ、そりゃそうなんだけどさ……」

(-ω-っ)З(11) 

「? どうした? 知ってるのか?」
「うむ……」
 クラウスは頷きながらも答えはせず、ただそそくさとハンカチを取り出した。そして、それを自身の掌に広げて乗せ、スティーブンに向ける。
「ここに」
「? うん」
 戸惑いながらも言われるまま球体をクラウスの掌に乗せる。と、クラウスは球体を丁寧にハンカチで包み、そして扉のある方向へ向かう。
 スティーブンもその後を追うと、クラウスは扉を開けてギルベルトに球体をハンカチごと渡すと、言った。
「成分を調べてくれ」
「畏まりました」
 ギルベルトが一礼して下がると、スティーブンは半眼になった。
「おい、そろそろ教えてくれよ。アレは何なんだ?」
「うむ。レオのフンだ」
「なんだ、それならそうと言ってくれよ」
 クラウスの返答に軽く笑ってから、そのまま硬直する。
「……フン?」
「そうだ」
「……………………」
 スティーブンが自身の時間を止めていると、クラウスは小首を傾げる。
「……そろそろ対策を練りたいのだが」
「そうだな。でもその前に、手を洗って来る」
 スティーブンは固まった笑顔のまま、言った。
 

(-ω-っ)З(10) 

 ライブラ本部にこんなものがあっただろうか、とある意味現実逃避で考えていると、クラウスがスティーブンの隣に立つ。
「探しに行かなければ……」
「気持ちはわかるが、落ち着け」
 クラウスがそう言うであろうことはわかっていたし、スティーブンだって同じ気持ちだ。だが、あまりにも訳がわからなさすぎる。
「相手は、瞬間移動の能力を持つ種族だ。そうなると、行き先はヘルサレムズ・ロット内とは限らないんだぜ」
 闇雲に探しても時間の無駄、と遠回しに言うと、クラウスは俯き、しかし踏み止まってくれた。
 なので、掌の中で先ほど拾った球体をなんとなく弄びながら、続ける。
「レオの身が心配なのはわかるが、防御に関しちゃレオはある意味最強なんだから、大丈夫だろう」
「うむ……」
 クラウスはこれにも頷き、そして、やっとスティーブンの持つ球体に気付いた。
「……それは?」
「ああ、ここに落ちてた。何だろう?」
「………………」
 軽く笑うスティーブンに、クラウスは思案する様子を見せる。

(-ω-っ)З(9) 

「れ、レオ……!」
 即座に立ち上がったのは少年レオナルドで、ゆっくりとデスクに近付き、声をかける。
「どうした? 苦しいのか? 腹でも痛いのか?」
 あえて普通に話しかける少年レオナルドに、スティーブンもごくりと唾を飲む。
 クラウスと揃っていつでも動けるように態勢を整えたところで、レオナルドが動いた。というか、一瞬でそれが終わった。
 レオナルドが口をがぱりと開けて少年レオナルドを丸呑みし、左右を見渡す仕草をしてから、デスクの後方にある窓ガラスに突っ込む。
 派手な音を立てて防弾ガラスを破壊し、そのままビルの外へ、ミサイルのようにすっ飛んで行った。
「レオっ!? 待っ――」
 そう叫ぶも手遅れで、スティーブンが窓際に到着した時には、レオナルドの姿は影も形も見当たらない。
「何てこった……」
 しばらく呆然と佇み、そしてふと足元を見る。
 散らばっている硝子の破片の中、黒く丸い、砲丸のような小さな球体が、床の上に転がっている。
「……?」
 身を屈めてそれを取り、確認する。重さや硬さを見るに、レオナルド用のおもちゃではないだろう。

(-ω-っ)З(8) 

「ギルベルト、扉を! 誰も入らないように廊下で待機だ!!」
 クラウスが執事に叫ぶと、ギルベルトは頷き、両扉が轟音と共に閉められる。レオナルドの突撃で、扉が壊れなかったのは幸いだった。
 ソファの物陰に少年レオナルドも避難したのを認め、スティーブンは先よりは落ち着きを取り戻してクラウスに言う。
「原因究明は後回しだ。まずはアレを止めないと」
「う、うむ」
 スティーブンが跳ね回る凶器となったレオナルドを指すと、クラウスは思案する様子を見せる。
「私がレオを受け止めよう」
「それだけは止めてくれ!!」
 スティーブンが青褪めるも、クラウスは本気らしい。冗談だとも思っていないが。
「大丈夫だ、私は鍛えている」
「大丈夫じゃないって!」
 スティーブンが声量を上げたところで、ふと激突音が止んだ。
「?」
 見ると、レオナルドはスティーブンのデスクの上に留まっており、鼻息荒く呻り声を上げている。鼻面に皺を寄せる表情は、『機嫌が悪い』程度の状態ではないとわかる。

(-ω-っ)З(7) 

 丸い何かはレオナルドだと直感で察して名を呼ぶが、目を凝らしてから眉を顰めた。
 少年レオナルドを飲み込んでいた時はともかく、レオナルドは全身が一色のクリーム色だ。だと言うのに、跳ねている何かは毒々しい斑色で、緑や紫などの色が覗える。
「レオ……!」
 やっとクラウスが現れたので、スティーブンも伏せつつ問う。
「一体どうした!?」
「わからない! 歯磨きをしていたら突然色が変わり、歯磨き粉のチューブを丸呑みしてからああなったのだ!!」
 そう答えるクラウスの髪をレオが掠め、壁にぶつかってひびを入れると反対の壁に向かって跳んだ。クラウスの赤い髪が散るほどの勢いだ。
 人体に当たったりすれば、本気で命に関わる。内心でぞっとしつつ、スティーブンはそろそろと壁際へと移動した。クラウスもスティーブンに倣って身を屈める。

(-ω-っ)З(6) 

 そしてスティーブンは自分のデスクに着こうと、少年レオナルドの脇を通り過ぎたのだが。
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
 突然奇声が耳に届いた。
「な、何だ!?」
「レオ!?」
 後者は少年レオナルドの台詞で、それで今の声はアザラシレオのものだと悟る。
 身を翻し、クラウスらのいる洗面所へ行こうとしたところで、
「レ、レオ、落ち着き給え……!?」
「あばばばべばばばばばばばばばばばばばばばびばばばばばばばばばばぶばばばば!!」
 クラウスの悲鳴じみた声と、またしても奇声が轟く。
 ちょっとやそっとのことでは驚かないボスの声に、スティーブンも青褪める。
 一瞬足を止めてしまったが、再度事務所の外へ向かおうとしたところで、向こう側からの衝撃により、スティーブンが開ける前に両扉が開いた。
 丸い何かが跳ねながら事務所に飛び込んで来、頭を抱えて蹲る少年レオナルドにも構わず、あちこちをぼよんぼよんと跳ねて壁や床、天井にぶつかりながら四方八方を駆け回る。
「レオ……!?」

(-ω-っ)З(5) 

 主の促しに老執事も頷き、回れ右をして洗面所へと歩いて行く。クラウスとレオナルドもその後を追うようにして事務所を出て行った。
 平和だな、とスティーブンが思った所で、ふと、少年レオナルドが無言でいることに気付く。
「どうした?」
「え? いえ……」
 基本穏やかな表情の彼が、僅かに眉根を寄せて腕を組む。
「何て言うか……その……いえ、多分、気の所為かな?」
「?」
 本人にもはっきりとしたことはわからないらしい。が、どこにでもいる平凡な『人間型』に見えて、彼の瞼の下には『神々の義眼』が隠されている。彼自身が何とも思わなくとも、眼球が何かを捉えていることも有り得るので、スティーブンは言った。
「気付いたことがあったら、いつもで良いから言ってくれ」
「……はい」
 スティーブンが少年レオナルドの肩を軽く叩くと、彼は頷いた。

(-ω-っ)З(4) 

 スティーブンが抱えているレオナルドも楽しそうに笑ったところで、少年レオナルドが顔を上げる。
「クラウスさん、帰って来たみたいです」
「お、そうか」
「わー」
 最後の声はアザラシの方のレオナルドで、少年レオナルドの台詞を聞いた途端にそわそわと身動ぎする。
 そう時間も経たずに再度扉が開き、ライブラのボスであるクラウスと、彼の執事のギルベルトが姿を現した。
「おか! くら!」
「うむ。ただいま、レオナルド」
 レオナルドを抱いたままスティーブンが向き直ると、クラウスは口元を緩めてレオナルドを撫でる。
「新しい味の歯磨き粉が到着だ」
「わー!」
 スティーブンの笑いながらの台詞に、レオナルドが前肢を上下させる。ギルベルトも、抱えていた紙袋から歯磨き粉のチューブを取り出して微笑んだ。
 スティーブンがクラウスにレオナルドを渡すと、クラウスは頷いてから受け取り、レオナルドに言う。
「少しだけ使ってみるかね」
「ん!」
 ぶんぶんと首を上下に振るアザラシに、クラウスはまた頷いてギルベルトに視線を送った。

(-ω-っ)З(3) 

 そこに見えたのは珍しくもないCMだったが、それだけで納得した。画面にはスティーブンも知っているメーカーロゴと、新発売の歯磨き粉が映っている。
『歯磨きが嫌いなお子さんも、このチョコレート味のペーストで歯磨き大好きっ子に!!』
「今、クラウスさんが買いに行ってるんです」
「成る程」
 スティーブンが苦笑すると、少年レオナルドはレオナルドの額を軽く撫でた。
「最近フルーツ味のに飽きて来てたところなので、丁度良かったです」
「味を変えるだけで良いなら、安いもんだ」
「ええ。ただ……」
 スティーブンが肩を竦めると、少年レオナルドは僅かに目を伏せる。と言っても、少年レオナルドはとある事情により常に瞼を閉じているので、あくまで雰囲気だが。
 とまれ、これにもスティーブンが首を傾げると、少年レオナルドがレオナルドの前肢の先を抓むように持ち、軽く上下させながら言う。
「あんまり美味しい味だと、歯磨き中に泡を飲み込んじゃうんですよね」
「深刻そうに言うんじゃない」
 心配して損した、とスティーブンが息を吐くと、少年レオナルドが笑った。

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