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R18腐注意 

下ネタ注意 

だから今は還ろう。

彼が安全に心を休められる場所に。

「‥‥そろそろ還ろうか。チョロ松たちが心配しちゃうし」

「‥‥か‥え‥‥る‥‥」

「うん、還ろう。俺たちが棲まう場所に‥‥」

涙に溢れた両目を着物の袖で拭い、カラ松を抱え直すと、おそ松は背を向け遠ざかろうとしていた天狐の屋敷の方へ向き直る。

そんな彼の肩に掴まるよう、カラ松が両手をゆっくり伸ばししがみつく。

「‥‥‥かえ‥‥る‥‥。おれ‥‥の‥‥かえる‥‥ばしょ‥‥」

「‥‥うん、かえろうな」

ほんのすこしだけではあるが、意思を取り戻してくれたカラ松。

それが嬉しくて愛しくて、おそ松は目尻に涙を滲ませながら微笑う。

茜色に紫が混ざり始めた空を、彼らは自らの棲まう場所へ還ってくる。

その光景を地上から見上げていた天狐の腕の中では、一羽の烏が力なく身体を預け眠っていた。

「おまえも、早く還っておいで‥‥からまつ‥‥」

優しく囁き、眠る烏の頭に口付けた天狐が寂しく微笑う。

了。

「‥っらまつ‥‥からまつ‥‥」

嗚呼。

彼の心だ。

カラ松の心はまだ、ちゃんと此処に居るんだ。

そう思えば思うほど、涙は更に溢れて、頬を撫でてくれるカラ松の指はあっという間に彼の涙で溺れてしまう。

「‥‥‥お‥そ‥まつ‥‥」

「‥‥うん‥‥うん‥‥っ‥」

名を呼ぶ声に抑揚はなく、その表情も無表情のままだ。

だけど、ちゃんと伝わってくる。

彼の心が。

彼の優しさが。

彼の温もりが。

「‥‥へへ‥‥ありがとうねぇ‥‥からまつぅ‥‥。ありがとう‥‥っ‥ほんとうに、ありがとうな‥‥」

込み上げてくる愛しさが溢れ、ただ只管にカラ松の身体を強く強く抱き締める。

絶望に諦めかけた心が再び奮い立てる。

「‥‥俺、絶対に諦めないよ。またいつか、おまえが微笑ってくれるの、ずっとずっと待ってるから」

ほんの一欠片もない希望かもしれない。

それでも、彼の心に灯る光はまだあるんだ。

なら自分は、その光が消えてしまわぬよう今度こそ彼を絶対に護ろう。

そして、いつかその光が眩しく輝き出す日を待ち続けよう。

苦しい。

悔しい。

こんな終わり方は哀しい。

自分たちはこんな哀しい最期を迎えるために、常世に生を受けたというのか?

そんな鬩ぎ合う感情が思考を掻き回して、おそ松は嗚咽を漏らし泣きじゃくる。

抱えるカラ松の頬に涙の雫が落ちていく。

「‥ひっぁ、ぇっ、ぇぇっ‥‥」

もうこんな世界いやだと嘆く。

だけど、こんな最期もいやだと。

相反する感情がおそ松の心を締め付け苦しめる。

「ぅ、あっ‥ひっ‥くっ‥‥ぇっ‥‥」

戻りたい。

ほんのすこし前まであった幸せな日々に。

還りたい。

「‥‥‥ぉ‥そ、まつ‥‥」

「‥‥‥‥っ‼︎ 」

涙に濡れる頬に触れたか弱き温もり。

それは腕に抱いていたカラ松の指だった。

変わらず暗く光を無くした目をしているが、その視線は間違いなくおそ松を見据えていた。

彼の流るる涙に触れ、まるで慰るように指先で優しく撫でてくれる。

カラ松が絶望した世界。

そんな世界で壊れまま生き長らえさせてしまうより、共に逝ってしまった方が自分も彼も救われるのだろうか。

そんな深淵の闇に心を巣食われてゆくおそ松は、カラ松を抱きかかえたまま、天狐の屋敷上空を離れ茜色の空へ溶け込んでいく。

遠くなっていく天狐の屋敷。

視界の端に、天狐と烏天狗の姿が映る。

庭園に繋がる階段に腰を下ろし俯く烏天狗を、気遣うように優しく抱きしめる天狐。

烏天狗もあの一件以来、心身を病み伏せってしまっている。

彼は一連の騒動の責任を自分のせいだと悔やみ、弟子であるカラ松の現状を聞いた時は、おそ松同様いやそれ以上の取り乱しようだった。

壊れたように泣き崩れる烏天狗を、天狐が宥め抱きとめるが、彼の目もまた、カラ松と同じく深い闇の中に堕ちてしまっていた。

「‥‥‥‥っ」

日常が音を立て壊れていく。

当たり前だと信じて疑わなかった日々は、もう戻って来ない。

そう改めて理解した瞬間。

おそ松は泣いていた。

溢れ落ちるように、つらつらと涙が頬を濡らしていく。

軽くなってしまったカラ松の身体を抱きかかえ、黄昏時が近づく空へ上がったおそ松。

西の空を烏の群が飛んでいく。

「‥‥ほら、カラ松。空だよ」

落とさぬようにしっかり抱えて、おそ松は茜色に染まる空をカラ松に感じさせながら、明るく話し掛ける。

「‥‥‥もうすぐ秋だから、紅葉が色付いてきっと綺麗だよ。こうやって空から見たらさ、海みたいに紅が広がってるが一望できるからさ‥‥その時はまた連れてきてやるからな? 」

「‥‥‥‥」

「美味い食い物もいっぱいあるし、カラ松、栗ご飯好きだったろ? 実ったら栗拾いに来てさ、腹いっぱい食おうな? 」

「‥‥‥‥‥」

「それから‥‥それから‥‥っ‥‥」

どんなに話し掛けても、虚ろな表情を浮かべ只管に虚空を見つめるカラ松に、明るく振る舞っていたおそ松の表情がだんだんとやりきれなく歪む。

どんなに諦めるなと自分に言い聞かせても、変わり果てた彼の姿に心が折れてしまいそうになる。

もう希望なんてないんだと。

無駄な足掻きなんだと。

いっそのこと、このまま彼と心中してしまったら楽だろうか。

例え何年、何十年、何百年経とうと、カラ松の心を癒してみせる。

幸い自分たちは寿命の長い妖怪だ。

時間は充分すぎるくらいある。

「‥‥必ず、俺がおまえを‥‥」

「‥‥‥おそ‥‥まつ‥‥」

「っ、カラ松⁈ 」

不意に自分を呼んだ、か細く消え入りそうな声。

だけど、彼が自分の名前を呼んでくれた。

その事実だけでも嬉しくて、おそ松は細くなってしまった彼の両肩に手を添えながら優しく言葉を返す。

「ん、どうした? 何かして欲しい事あるか? 」

どんな要望だって良い。

カラ松が望むなら、どんな無理難題だって叶えてやる。

「‥‥‥‥‥そら、いって‥‥みたい‥‥」

虚ろな眼をしたまま、そう答えたカラ松の望みに、おそ松は思わず息を呑むが、すぐに平常心を装い笑う。

「うん、いいよ‥‥。空な、わかった。お兄ちゃんが連れて行ってやるからな」

カラ松がどんな気持ちで空へ想いを馳せたのかはわからない。

だけど、ようやくカラ松が空への興味を見せ始めたのだ。

叶えてやらないわけなかった。

屋敷の最奥。

天狐の厳重な結界に護られた一室に彼はいた。

曼珠沙華が咲いた庭園を窓越しに眺める後ろ姿は、あまりに儚く今にも景色に溶け消えてしまいそうだと、おそ松は部屋の入り口に立ちながら思う。

「カラ松」

一つ名前を呼んでみるが、庭園を眺める後ろ姿が振り向く気配はなく、おそ松は驚かさないような静かな足取りで室内に入っていく。

紅い曼珠沙華が庭を埋め尽くすように咲き誇るのを、いったい彼はどんな表情で見ているのだろうかと、となりに並びその顔を覗き込むも、すぐにおそ松は悲痛に眉を寄せてしまう。

「カラ松‥‥」

目の前に広がる曼珠沙華を眺めているようで、その実、その深く暗く淀んだ眼は何も映してなどおらず、なんの感情も孕んでいなかった。

ああ、やっぱり駄目なんだろうか、もう。

もう、彼の心を癒す術はないのだろうか。

「カラ松、身体‥冷えちゃってるよ」

「‥‥‥」

氷のように冷たくなったカラ松の身体をそっと抱き寄せながら、それでもと、おそ松は諦めそうになる己自身を奮い立たせる。

わかっている。

嗚呼、わかっているさ。

カラ松の心が壊れてしまった事なんて。

あの日、どんなに声をかけ抱き締めて、口付けを交わしても、暗く淀んだ瞳のまま何も反応してくれなかったカラ松。

棲み家である天狐の屋敷に戻って来てからも、カラ松は何も反応しなかった。

泣く事も怒る事も。

喜怒哀楽が激しくて、くるくる変わる表情が愛らしくかったのに、今のカラ松からは、それらの感情が刮げ落とされてしまったかの如く無表情だった。

誰がどう声をかけても、暗く淀んだ瞳で虚空を見つめ返すだけで、言葉もほとんど発する事はない。

「‥‥ごめん、ごめん、カラ松っ‥‥」

どんなに謝っても何も覆せない。

カラ松の心を救い出せなかった事実が悔しくて、おそ松は掌に爪が食い込む程、強く強く拳を握り締めた。

カラ松が飛びたくないと望む?

そんなのあるわけない。

あんなに楽しそうに、大翼を羽ばたかせ大空を舞っていたのに。

「あいつは誰よりも空が好きで、空を飛んでる時がなによりも満たされていたんだっ‼︎ なのに、そのあいつが、そんなっ‥‥」

チョロ松に抑えられながら漏らした悲痛な声は、自分でも初めて聞くような酷く狼狽していた。

「‥‥恐らく、心の問題かと思われます。カラ松様はお優しい御子じゃ。好いていた人間からあのような非道な行いを受ければ、お優しいカラ松様の心はきっともう‥‥」

「おそ松兄さんっ‼︎ 」

それより先は聞きたくなくて、おそ松は抑えていたチョロ松を振り払い部屋を飛び出していく。

廊下を我武者羅に走り抜き、建物の外に裸足のまま踏み出し、止まることなく走り続けた。

「んでっ‥‥なんでだよ、ちくしょぉぉぉぉっ ‼︎ 」

有らん限りの声で、天に向かい吼えたおそ松のやりきれぬ憤りに呼応するように天を破る雷鳴が轟き渡った。

一ヶ月が過ぎた。

天狐と鴉天狗、そしておそ松の手によって救い出されたカラ松は、すぐさま赤塚山に棲む治癒力を持つ妖たちから治療を施された。

また天狐から妖力を分け与えられた事で、自己治癒力も高められ、兄弟からも献身的な看病を受けた甲斐もあり、カラ松の怪我の大半は一週間で完治する。

だが、どんなに上級の治療の力を持つ妖であっても、彼の翼だけは癒す事が出来なかった。

「‥とべない ⁈ 二度と‥‥? 」

長い事、カラ松の治療に貢献してくれた治癒能力妖怪が告げた言葉に、おそ松は耳を疑い、弟たちも愕然としてしまう。

好々爺な妖が深刻な表情で語るから、それが決して冗談ではないんだと思い知らされる。

「わしの妖力を限界まで注いでみましたが、まるで穴の空いた風船のように、注いだ妖力が抜けていってしまっています故、これは恐らく、カラ松様ご自身が翼を癒す事を望んでいないのかと‥‥」

「なん、だよ‥‥それ‥‥。カラ松が治る事を望んでないって‥‥なんだよっ‼︎ 」

「おそ松兄さんっ‼︎ 」

思わず相手に掴みかかりそうになった兄を、咄嗟にチョロ松が羽交い締めにし止める。

一瞬前まで慈愛に満ちた笑みを浮かべていたとは思えないほど、冷酷な表情へと変えたおそ松。

人間たちが口々に命乞いの声を上げていたが、その声は何一つ、彼の耳には届かない。

もはや言葉とすら感じず、ただの耳障りな雑音としか思えない。

「‥‥滅びろ、愚かな人間ども」

地を這うように低く冷たい声で告げたおそ松が、背後に従えていた赤き青龍に命じた。

「やれ」

瞬間、鴉天狗を抱いた天狐は素早く天に飛ぶ。

赤き青龍が大地が震える程の咆哮を上げた直後、辺り一帯は朱色の炎に包まれる。

その日。

赤塚山の麓にあった一つの小さな村は壊滅した。

村人は1人残らず死に絶えた。

遺されたのは灰に変わった村の残骸。

付近の村の人間が騒ぎを聞き付け駆け付けたが、そのあまりに凄惨な焼け跡に、誰もが口を閉じ、逃げるように自分たちの村に帰って行った。

そして誰ともなく囁くようになる。

「あの村は妖の怒りを買い、滅ぼされた」のだと。

ごめんなと、囁いたおそ松。

主である天狐と鴉天狗と共に村へ向かいながら、おそ松はカラ松の事を思っていた。

人間たちに食べ物を援助してやる話を聞いたらきっとカラ松は喜ぶだろうなと。

人間と妖が共存する世界を夢見ていたカラ松。

どうせなら、彼も共に来れば良かったのに、あいにく姿は見えなくて、何処に行ったのかと思いつつ、帰ったら報告してやろうと思ってたのだ。

なのに、何故その彼が人間たちに嬲られているのだろうか。

何故、自分は何も察することなく呑気に過ごしていたんだろうか。

「‥‥もっと早く、助けてやれなくて、ごめんな‥‥カラ松っ‥‥」

悲痛に眉を潜め、そう後悔と謝罪を口にしたおそ松が、未だ虚空を見つめるカラ松へ優しく口付ける。

温かくて柔らかっかった彼の唇は、噛み締めた傷口で痛々しくて、同時にその傷口がどれだけ彼が苦しんだのかを如実に物語っていた。

「‥‥大丈夫、きっとすぐに治るよ。帰ったら、すぐに治癒してもらおうな ? 」

彼の頰を包むようにし、慈愛に満ちた笑みを浮かべたおそ松が、今一度、カラ松と唇を重ねると、怯える人間たちへ視線を移した。

注意 

注意 

注意 

「‥‥おまえらも馬鹿だねぇ。こーんな真似しなけりゃ、このお優しい鴉天狗様が妖界の掟破り覚悟で、おまえら人間に食い物を援助してやるつもりだったのにさぁ‥‥」

人間好きの鴉天狗は、飢餓と疫病に苛まれる人間たちを哀れみ、せめて食べ物だけでもと、赤塚山の護り神である天狐に頼んでいた。

本来ならば、いかなる上級の妖だろうと人間の生活に干渉する事は許されない。

それが妖界の暗黙の掟。

もちろん天狐も最初は首を縦に振らなかったが、昔から頑固でこうと決めたら考えを曲げない鴉天狗の性格をよく知っていたし、なにより、天狐にとって特別な存在である鴉天狗の頼みだ。

多少の贔屓目と、万が一の場合は自分が責任とれば良いかと、天狐は鴉天狗の頼みを了承する。

そうして、人間であれば一年程度は事足りるであろう食べ物を持って、彼らは麓の村に降りて来たのだが、そこで待っていたのは仲間が嬲られる姿だった。

「‥‥救えねぇ、本当、救えねぇよ。おまえら」

弓形に歪ませた口元には嘲笑。

腰を抜かし無様に後ろへ這い蹲り逃げる人間たちへ、天狐は一歩また一歩と近づく。

残酷描写注意 

注意 

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