いちさに 吸血鬼パロ1 

今日の朝もいつもと変わらない平凡な朝で、お昼だって普通に市場で買い物をして帰ってきた。なのに、両親は鬼気迫る表情で私を家へ入れて、何の説明もなく自室に閉じ込めた。ただ、何か非日常が起こっている……それだけしか分からなかった。

「何が起きてるの……」

ガチャガチャとノブを捻っても開く気配がない扉から離れて、不安を晴らすようにベットの上に勢いよくダイブする。けれど、不安は晴れてくれず、ただベットがギシリと悲鳴を上げただけ。

「外を見たら、何かあるかな」

閉めた覚えのないカーテンを開けて、窓の鍵へと手をかけた……その瞬間。何羽もの鳥が羽ばたいているような、普段では聞いたことのない羽ばたきが耳に入ってきた。
窓は、開けない方がいいかもしれない。そう思って窓ガラスに顔を押し付けるようにしてその音の主を見ようと目を凝らす。すると、鳥なんかよりも大きな、翼の生えた人影のようなものが幾つも空を飛んでいた。

「うそ……吸血鬼?」

吸血鬼、その存在は噂で知ってはいた。人と変わらない姿を持ってはいるけれど、彼らの食事は人の血。彼らは人を攫ってその血を啜るのだと聞いている。

いちさに吸血鬼パロ2 

実際、人の多い街なんかでは行方不明の人も出ているらしいと野菜売りのおじさんが教えてくれた。でも、それはあくまで人の多い土地で……こんな田舎に吸血鬼が、それも1人、2人ではなく大人数で空を飛んでやってくるなんて誰が思うだろう。
どういう経緯か分からないけれど、恐らく両親は誰かから吸血鬼がこちらへ飛んできていることを聞いて慌てて私を部屋に押し込めたに違いない。きっと、私の友達も同じような目にあっているんだろうなぁ、なんて思いながら向かいの家の窓を見やると、やっぱり私と同じように窓を覗き込んで吸血鬼の方を見ている子がいた。

「好奇心旺盛もいいけど、目を付けられても知らないんだから」

外に出ていないとは言っても、吸血鬼が窓を壊してこないとも限らない。あの子に注意をしておきたいけれど、吸血鬼の飛ぶ速度は意外と早くて、はっきりとその姿を見れるところまで来ている。申し訳ないけれど、私は私を優先させてそっとカーテンを閉めて大人しくベットの上に座り、吸血鬼が早く去ってくれることを祈った。

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いちさに吸血鬼パロ3 

ひとつ、ふたつ、バサバサと大きな羽音を響かせながら私の家の上を、横を、吸血鬼達が通り過ぎていく。よかった、ただこの町を通り道にしただけなんだ。胸の不安が安堵に取って変わっていく。あの子も珍しいものが見れたから、きっと明日はこの話ばかりを聞かされるに違いない。そう思った。なのに、
「いやぁああ!!!」
どうして向かいの家から聞き覚えのある悲鳴が聞こえるの。
ドキドキと嫌な音を立てる鼓動が耳を打ち、震える手がそっとカーテンを小さく開ける。そして、見えたのは白い髪のとても顔の整った男の人と、さっきの絹を割くような声とは裏腹に、恍惚とした表情を見せながらその男に抱きしめられているあの子だった。それだけなら、きっと私は呆れ果て、即この手を下ろしてカーテンを閉じたに違いない。そうならなかったのは、あの子の首筋に男の口が宛てがわれていたから。牙はこちらからは見えないけれど、きっとあの子は今血を吸われている。酷いことをされているのに、抵抗もせず、むしろ嬉しそうに男に抱きつくその子を見ていられない。なのに、目が逸らせない。
怖い。恐怖心でどうにかなりそうなその光景を美しい人が遮った。

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いちさに吸血鬼パロ4 

「態々彼女を怖がらせるような真似をしないでくれませんか?」
「いや、悪い悪い。お前が一目惚れしてた相手だって言うから、どんな奴かと気になってな?」

白い男があの子の首筋から口を離して目の前の人に答える。ああ、この人も吸血鬼……。離れないと、そう思って目の前の彼が白い男に気を取られている間にカーテンを閉じる。

「あっ……」
「はは、振られたな一期!」
「貴方が怖がらせるから、私にまで怯えてしまっているではないですか……! 大丈夫、あの男のような怖いことはしません。ですから、ここを開けて下さいませんか?」

コンコンと窓をノックされるけれど、素直にはいそうですか、なんて開けるはずもない。その声には答えずにゆっくりと後ろへ下がって距離をとる。

「……この手は使いたくなかったのですが、致し方ありませんな。『ここを開けて、こちらにおいで』」

声を聞いた途端、首筋がかぁっと熱を帯びる。訳が分からないうちに頭がだんだんぼぅっとして……気がついたら窓の向こうで、あの美しい吸血鬼に抱きしめられていた。

「お久しぶりです。約束通り、迎えに参りました」

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