‪実はあなたには双子の兄さんがいたの。母が私にそう告げたのは、政府の人間がクリスチャンを連れ去ってしばらく後の事だった。生まれて間もない兄と私の検査結果は、「メイカーの素質あり」。母には大量の音源データが渡されたーー当時はまだテープだったそうだ。母は兄にだけそれを聞かせ、私には耳栓を施した。果たして二歳の検査で兄はメイカーに選出される。兄は政府に連れ去られ、母の手元には私だけが残された。「僕は母を憎むだろう」あのとき妻に告げた言葉が耳の奥で谺する。兄の名の記された譜面は未だ見かけていない。メイカーに成ることができなかったのか、その後の兄がどうなったのかは一切わからない。ただ、幸いであれと祈るばかりである。‬

ずる / ‪

普段驚く程がさつな男がふと顔を上げて咲き始めの花を見つけたのだと言う。かすかに花の香りがしたたのだとわらう、その様を思い浮かべる。「あれは、狡いですよ」そう言ってBBJはズルズルと崩れ落ちる。面白がって少し飲ませ過ぎた様だ。ギャップ萌えと言うやつか。思ったけれど口には出さずに「まあ、オリエンタルのやつらは多かれ少なかれ、そういうところはあるな」などと適当な相槌をうつ。思い浮かべるのは薄紅のちいさな花びらが散る様だ。あの儚い香を街中で見出すのは、なかなかの才能であると思う。

もう随分むかしにかいたおはなしですが 再々録。ちょっとお気に入りなのです。劇団指揮の、ジーザス・クライスト=スーパースターのファンフィクションでした。

いつかの世界で、私はユダであった。またいつかの世界で私はシモンであり、ペテロであった。そして今、私は彼の裏切りを受けて囚われようとしている。大いなる意思の下に。私がユダであったとき、この行いは正義であった。歪んだ道を正すための、彼の人を救うためのそれであった。しかし今、あれは私ではなく、また私も彼の人ではない。だのに筋書きは同じ様に進むのだ。可笑しなことだと薄く笑う。 

これ、一人称ばにーさんのつもりだったけど、まさかのロイズさんだったらちょっとおもしろいなって今さら思ってしまった。みすでぃれくしょん。

「母ちゃんは、こないの?」ペンギンのプールを取り囲んだ鉄柵に顎を乗せる様にして、ぽつりと少年がつぶやいた。「寂しい?」「ううん、でも」「もしかして、捨てられたんじゃないかと思った?」言い淀んだ言葉を引き取れば、少し伸びた黒い髪がそっと項垂れる。ペンギンが甲高く一声鳴いた。「君は、いま十歳だっけ?ヒーローは好き?」尋ねると、こくりとちいさな頭が頷く。「じゃあ、こっそりひみつの話を教えてあげよう。実は君はこの街でヒーローをやっている。そこで能力者の力を浴びて、年が若返ってしまったんだ」内緒だよ。人差し指を立てて冗談めかして言えば「だったらいいなあ」と力無く微笑む。「おや、疑ってる?じゃあもう一つ教えてあげる。君には相棒が居たんだ。君と全く同じ能力を持つパートナーがね。彼も君と一緒に能力者の力を浴びた。そして君が若返ったぶんの年を彼が受け取ってしまったんだ」大体三十年分くらいかな。少し節くれだった掌で顎を撫でてみせる。「おじさんが?」興味を惹かれた風に少年がこちらを見る。「信じるかい?」少年の隣に凭れかかりながら、ちいさく微笑む。

開園と同時にきみはライオンの檻の前に駆け出した。二キロ先でも聞こえると言うライオンの遠吠え。朝一番でないと聞けないんだ。檻にかじりつきながら瞳はライオンに向けたまま、説明してくれる。夜も聞こえるよ。サバンナでテントの中、トランプをしながら聞いたことがある。襲われたら死ぬかな、と思ったね。ゆっくりと足を組む。きみの瞳は僕に釘付けになっていた。

ピアノの目一杯右の端のキーを、とん、と押さえる。すこしハスキーな、頼りない、けれど確かな音。玩具の小さなピアノの奏でる音にもよく似たそれは、独特の甘さで以て短く響いて、ちいさく中空へと溶けていった。きみの声が同じトーンでそれを追いかける。高いたかいキーへと恐れずに飛び込む勇気。走り高跳びの高いバーをイメージする。助走も無く飛び上がって、そこからはじまる、うた。

ずっと前に書いたおはなしでおほしさまを貰ってテンションを上げていくスタイル

揚げたてのドーナツならここだ!と、雪の散らつくクソ寒い中を得意満面な顔で引っ張ってこられたのは半地下の古ぼけた喫茶店だ。扉をくぐるとカウンターの中にはちょっと可愛い格好した年嵩のマスターらしき男性がいらっしゃいませと軽く会釈をする。マスター、ドーナツと珈琲二つずつ!そう頼んで出てきたドーナツは至ってシンプルなものだった。熱々のドーナツにかぶりつけば、さくりと音がして口のなかにほろりとほどけてゆく。立ち上る珈琲の香しいかおり。どうだうまいだろうとわらう男に素直に頷く。ふと、先日失くした手袋の事を思い出した。よくよく見たメニューの欄には、小さく「効能」と言う文字がある。曰く、「あなたのたいせつな失せ物が見つかります」何か見つかったか?と、あなたがふしぎな笑顔でわらう。

じわじわとついしょーとからの再録をあっぷしてゆくよー。

あめふり / 路地裏 / かくれんぼ
こんなあめふりのよるだったよ。舌足らずなこえが妙に大人びた響きを持って耳朶に届く。路地裏で、アタシは何かを待っていた。そこに通りかかったのがアンタさ。その先の物陰に隠れていたのがこの子。まあ、向き不向きってあるんだよねえ。この子の方が入りやすかった。何、そんな怖い顔しなくてもすぐに出て行くさ。いつかって?あと二回くらい雨が降ったらかねェ。そう言って婀娜っぽく足を組み替えると、ちらりと横目で魔術師を見遣る。変なことはお考えでないよ。何れ出て行くと言ってる者にコトを起こすなんて、下策ってもんだ。「雨を、二回降らせればいいのかな?」静かに答えた魔術師の眼は、わらっていたが少し怒っている様にも見えた。どうかねぇ?やってみるかい?たのしそうにわらって少女はそれを睥睨する。

これ、もう四年も前にかいたおはなしなんだせ…

@komoridonburi 的な寝息になった。ほんとうなんです。今しがたの酔っ払いの戯言を思い返して、その馬鹿馬鹿しさと可愛いらしさに小さくわらう。その夜、夢を見た。まっくらな深海の底は、黒と言うより藍色で、まるで初夏の夜空の様だった。小さなプランクトンみたいなものがそこかしこで光りながら浮かぶ。その中で鮟鱇を持ったあいつが立っていた。鮟鱇の灯りはほんのりと、けれどやさしく辺りを照らしていて、なるほど、確かにこれは最後の希望かもしれないと夢現にぼんやり思ったのを覚えている。

鮟鱇に灯るあかりがこの星の最後の希望です  ほんとうです  (筒井宏之 / 佐賀新聞読者文芸欄 )

ちょっと飲ませ過ぎたかな。そう思った頃にはもう遅かった。ぐでんぐでんに酔っ払った可愛いかわいい兎ちゃんは、それでも僕は酔ってませんみたいな顔をして、少し上体を揺らしながら正座して正面に座っている。そもそもお前シラフで正座とかしねーだろーが。などと突っ込んだら負けだ。お前もうやめておけ。手に持ったグラスを取り上げる。呂律の回らない舌で抗議の声が上がるが無視をする。追い立てる様にして取り敢えず歯だけは磨かせて布団に押し込んだ、その時だ。「こてつさん」それまでぶーぶーと文句を垂れるだけだったあいつが、ふと真顔になって、とても大切な事に気が付きました とでも言った様子で俺を呼んだ。どうした?それまで小さな子供をあやす様にしていたのを引っ込めて先を促す。美しい翠の瞳がじっとこちらを見つめる。「鮟鱇に灯るあかり。あれこそが、この星の最後の希望なんです」お綺麗なハンサムの口から出た発言はやはり酔っ払いであった。ハイハイと金色の猫っ毛をぐしゃぐしゃとかき回す。その下から、ほんとうなんです と小さく声がして、やがてそれは規則

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