漆黒のドレスに、肘まである長手袋、宝石を散りばめたネックレス。
普段編み込んでいる桃色、いや、改めて見るとやや紫色に見える髪を下ろし
半刻前まではブレストプレートに大振りなブロードソードを振り回していて
女性らしさとは縁の無かった彼女の変貌ぶりに私は驚きを隠せなかった。
中身もこのまま、貞淑な貴族の女性に相応しい振る舞いを続けられれば良いのだが
気恥ずかしそうに彼女は私にチラチラと視線を向ける。
「とても綺麗ですよ」
素直にそう漏らすと彼女の顔はカァと紅潮してゆく。
…これは良くない傾向だ。
「馬子にも衣装とは言いますが、本当に見事なものですね。そのドレス」
「一言多いわよ、ばか」
先刻までの女戦士の顔付きに戻る、これでいい。万が一正体が露見しては台無しだ。
その為には戦場と同じ様に平常心を保って貰わねば。
「くれぐれも長居はなされぬ様に。そして、“あの方”をお連れして下さいね」
「はいはい、解ってるわよ」
そう言うと彼女は舞踏会の会場に入っていった。
私は知らず知らずのうち溜息を漏らし、淋しさを覚える。
「平常心が必要なのは、私も同じですね」
#小説 #ワンドロ #ワンライ #長手袋
字書き初心者。
基本は作品を見るだけ
ワンドロもたまに参加する予定です