ケンタシノリ @kenta_konomi

夜暗の忍 第1話(その1-3)

「施術は終わりました。これだけ押せばもう大丈夫だろう」
「いつの間にか治まっているとは、木兵衛のツボ押しは噂通りってわけだ。はっはははは!」
 大工職人は、木兵衛の施術の腕に感心しながら豪快な笑い声を上げている。施術前の苦痛に満ちた顔つきだったのがまるで嘘のようである。
「おいらの大工仲間にも、木兵衛のことを伝えておくよ。木兵衛のツボ押しを受けたら、腰の痛みも一発で治るってな」
 江戸っ子ならではのきっぷのよさに、木兵衛は柔和な顔立ちで大工の男の話につき合っている。ささいな話に耳を傾けるのも、ツボ師の仕事を続ける上で大切なことである。
 お代をもらって先客を送り出すと、木兵衛は次の客がやってくるまで仰向けに寝転がって一休みしている。そんな木兵衛は、ツボ師としての顔とは別にもう1つの顔を持っている。しかし、表の仕事とは違って、裏の仕事を知っている人は誰もいない。

 その頃、表通りでは瓦版を売る男の人が何かを読み上げている。周りには、老若男女問わず多くの人々が野次馬のように集まってきた。

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