鍵にあげてた何か始まりそうで始まらないあむあかパロ 

完全にしくじった。
塞がれて真っ暗な視界の中、あかいは思わず舌を打つ。依頼を受けた時点でろくでもない案件だとは思っていたが、そこで安請け合いべきではなかったのだ。軽率な判断を心の底から悔いたが、今となっては後の祭りもいいところである。
ここは、一体どこだろうか。
今わかるのは、自分が後ろ手に手錠を掛けられていること。意識を失うまで身に付けていた馬鹿馬鹿しい燕尾の衣装のうち、スラックスは確実に奪われていることだ。直接肌を撫でる空気と、長い毛足の絨毯から察するに、下着とソックスを残して素肌を晒しているようである。心もとない上、それ相応に不快だった。

「おや、お目覚めですか?思ったよりも早いな」

上から、声が降ってくる。反射的に顔を上げるが、恐らく布か何かで覆われている目は相手の姿を捉えることなど到底できなかった。
「おはようございます。気分はどうです?」
「顔色の一つでも確かめてみたらどうだ?アイマスクを外せば、自分で確認できるだろ?」
起きていることを誤魔化さずに言い放つと、男はクスクスと笑う。

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「それはまた後程。貴方の瞳には興味がありますが、それより先にやることがある」
目隠しと肌の境目をなぞられて、びくりと肩が跳ねる。遠ざかろうにも両腕を封じられていて、見えない指先が好きに動き回る感触に耐えるしかない。
「一応ね、体裁として聞かないといけないので」
薄い皮膚の感触を味わうように指先を這わせながら、男は続ける。
「貴方をここに送り込んだのは、どこのどなたです?」
「……悪いが、守秘義務があるのでね」
「ホー、適当なことを並べるタイプではありませんか。答えないのならそれはそれで結構。勝手に調べますし、大体の予測はついています……ライ、でしたっけ、貴方のお名前」
店に潜り込んだ際、与えられた源氏名で呼ばれる。何を聞かれても答えないという決意の元に口を閉ざすが、男は大して気にしていない様子だった。
「本名じゃないことくらい、わかっていますよ。安心してください、すぐに特定して、本当の名で呼んであげます。それまでは、僕にとって貴方の名前はライだ」
目元を擽っていた指が、ゆっくりとあかいの顔をなぞっていく。

頬骨を伝って、耳の孔にするりと滑り込んでくる感触に思わず唸ると、宥めるようにもう片方の手が目尻を撫でた。
「ああ、半分しか見えていないのに、この顔が美しいってわかります。鼠がいるって聞いたときは、さっさと駆除するつもりだったのに」
「っ、やめ、ろ」
身を捩って離れようとしても、上半身を封じられていてはどうしようもない。振り上げる機会を窺っていた足は、不穏な気配を感じ取ったらしい男が馬乗りになったことによって沈黙を強いられている。
「こ、ろすなら、一思いに……」
「殺す?なんの話です?」
不思議そうな声と共に、不埒な手が止まる。しばしの沈黙のあと、男はああ、と低い声を出した。
「……もしかして貴方、僕に殺されると思ってたんですか……?ふふ、そっか……怯えてたのは、そういうことなんですね?」
合点がいったとばかりに、楽しそうに笑っている。下卑た響きはなく、軽やかなそれは気品すら感じるのに、どういうわけか背筋が粟立つのを抑えられない。
「殺しませんよ、安心してください。貴方を殺すなんてそんな、もったいない」
宥めるような言葉に、ほんの少しだけ体の強ばりが弛む。

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