銀の森を黙って歩く。ぎゅうと雪を踏む音、星明りに照らされる雪化粧の木々。寒さは痛いほどでつま先の感覚などとうにない。
寒い、痛い、綺麗。この丘を抜けると絶景よ。宿のオーナーがあまりに勧めるので戸外に出たもののすでに後悔しかない。この森はまだ続くのか?道の両脇はうっそうと茂っていて終わりが見えない。
重い雪に難航して息が切れ始めた時だった。いきなり開ける視界、下に広がる美しい夜景。きらきらと光る街の灯り。
「うわあ」思わず声を上げた。
手袋ではうまくカメラのシャッターを押せず、僕は焦れて指先を銜えて引き抜き、雪の上に落とす。
何度も何度もシャッターを切る。だれに見せたいかなんて言うまでもない。
いつ会えるか分からないが、きっといつか。
そんな写真はもう何枚になっただろう。
写真が増えるごとに想いも募る。
今はいい。今だけはいい。この気持ちを抑える必要も、隠す必要もないのだから。
僕は、まだあの街に帰ることはできない。
赤くしびれるように痛む指先に息を吐き、雪の中一人佇む。/銀の森
分別もつく大人になって、まさか自分が服を着たまま水に飛び込むなんて思いもしなかった。
巨大な水槽には一匹の魚、いや、ひとりの人魚と言うべきか。
きらきらと光るグリーンの鱗。臍の下あたりだったものが、今はまるで飲み込まれるように胸元辺りまで広がっている。
痛みや苦しみはないようで、彼は気持ちよさそうに微笑みをたたえて泳いでいる。
人間としての意識は魚に変化した時からない。
そして、彼はもう数時間したら完全に魚になってしまうだろう。鱗に覆われて、巨大な美しい魚に。
ネクスト能力であることは分かっている。分かっているのはそれだけ。
戻れるのかはもちろん、完全変化したあとの生死すら分からない。
それを本人が理解していないのは不幸中の幸いなのかもしれない。
さようなら、虎徹さん。こんな仕事をしていれば、いつか失うかもしれない、死ぬかもしれないと思っていたけれど。それは鉄火場でのことであって、こんなに静謐で美しく、たゆたうように失くすことなど考えもしなかった。
彼のように泳げない僕は水の中で無様だ。そんな僕を笑うでもなく、まるで見えないように彼は泳ぎ続ける。/水槽の中の私と魚(お題bot)
あなたは3時間以内に3RTされたら、二人とも会社員の設定でいきなり告白されて戸惑う兎虎(すあま)の、漫画または小説を書きます。
いやいや、ありえねえし。俺は出向元のお偉いさんの顔をぽかんと見つめる。
「すみません、言うつもりはなかったんですけど」
言わないで欲しかったなあー、それなら。
いつもエリート然してる整った顔が、絞りだすみたいにあなたが好きなんですって言ったあと困った子供みたいになっている。それが可愛いと思うなんて俺は一体どうしちゃったんだ。
俺には亡き妻と、それに単身赴任で一緒には住んでいないが可愛い娘がいる。
恋愛とは遠い日の花火であり、ときおり懐かしくその後継や匂いを思い出すだけのものだと思っていた。
それなのに。
もう過去のことだと思っていたのに。
忘れてください、そう言い残してバーナビーは書庫から出て行ってしまった。
ぐったりと体を預けた棚は移動式。金属が軋む音を立てて動き出し、俺はしたたか尻餅をついた。
このあとからどうしたらいいんだよ。二十分後にはバーナビーも含めてのミーティングかあるっていうのに。
「っだ!!」
俺はひとりごちた。
何かっていうとバニーに声かけるし、我々で言うところのLINEとか送るし、何なら電話する。
みんなと仲良しは心から喜ぶのに、特定の誰かと一気に距離詰めるのは胸がギュッとなる(例:でっちあげなの分かってるんだけど熱愛報道系とか社内で立ち話を目撃とか)
仕事でほぼ常に一緒なのにプライベートを一緒に過ごしてるとまた別ですごく楽しい。
そんなとき無性に頭撫でたり抱き締めたり寄りかかったりしたくなる(頭以外は堪えてる)
でも男を恋愛対象として見る自分というものを想定してないから、すごく仲の良い唯一無二の相棒だと思ってる(つもりでいる)
そんな虎徹さんがバニーからの告白だとか、酔いやらなんやらに流されて押し倒されてだとか、事故チューだとかで急に自覚してわーってなって逃げようとするんだけど切羽詰まったバニーに縋るように迫られて、バニーの気持ちも自分の気持ちも受け入れるって流れ死ぬほど好きです。
何作も読んだし自分でも似たようなの書いてる気がするけど!!!
目の前で片膝をつくと、俺の手をとって見上げてきた。
「僕と結婚してください」
こんだけの人目がある中でなんてことをしやがるのか。いや、もともと嘘っぱちのプロポーズ企画だったんだ。むしろバディ愛! とか言って笑いを取るのが狙いなのかもしれない。
どう転んでも断れるはずもない状況で、仕方ねぇなバニーちゃんは、なんて言ってオッケーしてやった。
――あれから何年経ったっけか。
「今年もそろそろですね。今回はどんな服で行きます?」
「普段着取っ替えてみるか? 俺がバニーの服着て」
「僕が虎徹さんのを? いいですね。それでいきましょう」
嘘っぱちだったはずのプロポーズに、それまで何度も受けながしてきた本気のそれへの答えを返して、今俺らの左手には揃いのリングが嵌っている。
あの日撮ったウエディングフォトを毎年同じ日に同じ場所、同じポーズで撮って飾るのが、結婚記念日の恒例行事になっていた。
野次馬を引き連れてカメラクルーと一緒に姿を表した、我らがヒーローバーナビー。いつも以上に女の子達が大騒ぎしている。無理もねぇ。写真撮影を考えればそろそろ決めないと時間切れ。ここにいる女の子らの誰かが確実に選ばれるんだからな。
いつカメラが来てもいいようにとアイパッチをつけて、ハンチングを深くかぶり直した。
いいからさっさと決めちまえよ。誰でもいいんだから――。
プロポーズする相手を選んでるバニーを見続けたこの二日間で、よくわからねぇイライラが溜まってんだよ。
単なる企画で嘘っぱちなのは分かってんのに、あいつが他の誰かにプロポーズすると思うと落ち着かない。何度もはぐらかしておきながら言えたもんじゃないが。
『おや、タイガーさんが居ましたよ!』
画面とすぐ側両方から同じ声が聞こえる。同行してるディレクターが俺をみつけたようだ。まだ相手決めてねえのになんで来るんだ、そう思ったが笑って手を上げた。
バニーはまっすぐ俺の方へと歩いてくる。さっきまでの営業スマイルじゃなく、いつもの笑い方で。
「やっぱり嘘のプロポーズなんて出来ません」
【某Iさんのテレビの企画から浮かんだネタです】
「三日間で嫁さんをなぁ」
「写真だけですよ。ウエディングフォト」
特番の打ち合わせから戻ってきたバニーに聞いたときには、変な企画を考えるやつもいるもんだと感心したもんだけれども。
『いよいよ三日目に入りましたが、いまだ運命の相手には出会えていませんね。今日こそ出会って頂かないと番組的にしんどいんですけども』
『素敵な人が多過ぎて選べない、というのもあると思います』
街頭ビジョンを一市民として見上げながら、営業スマイルのバニーの苦労を思う。
今回シュテルンビルトのテレビ局で初めて、OBCが三日間ぶっ続けで生放送のバラエティー番組を放送してみている。その中の目玉企画がこれだ。バーナビーが道行く市民にプロポーズしてオッケー貰えたらウエディングフォトを撮るってやつ。ここまで引っ張ったのはもちろんヤラセ。俺がこうしてここにいるのもそうだ。プロポーズした相手をたまたまここで出会った相棒、ワイルドタイガーにいの一番に紹介するんだとか。
そろそろずいぶん近くに来ているようで、あたりが騒がしくなり始めた。
[R-18] 巣ごもり【バニ誕2017】 | 中村 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8849004
お家でのんびりイチャイチャからのエロです。なんか誕生日要素は果てしなく薄い気がするけど、とりあえずバニ誕です。
兎虎完全固定の成人済み腐。
同じく固定のお仲間以外はごめんなさい。
最近の呟きは基本非公開設定です。