着古したセーター。
終いに結んだ目を切り、ゆっくりと解く。
母さんが編んでくれたセーター。
寒い日はこれを着て、外で走り回った。
母さんは「転ぶわよ」と笑いながら注意した。
丁寧に、丁寧に解く。
走り回って転んで膝を擦りむいた。
泣いたのは痛みじゃなく、母さんが編んでくれたセーターが汚れてしまったのが悲しかった。
全部解き終わり、セーターだった毛糸を沸騰しているヤカンの蒸気にあて、再生させる。
雪が積もり、家族みんなで雪合戦をした。
ふっくらとした毛糸を、くるくるとまとめる。
雪が降りそうな日に、母さんと出かけた。
母さんとつないだ手。
編み棒を取り出し、一目一目ゆっくりと編んでいく。
背が伸びて、セーターが着れなくなった。
母さんはまた作り直そうねとセーターを畳んだ。
せっせと編み込んでいく。
あの日。
母さんが死んだ。
セーターは作り直してもらえなかった。
「ふぅ…」
最後の一目を編んで、結んだ。
「母さん、初めて編めたよ…」
ちょっとでこぼこの、長いマフラー。
母さんとの思い出と共に。
また歩いていく。
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