霊基異常でカ…トボォ~イな弓兵① 

性自認は男性、不可解に混ざりあった記憶の自分も全て男。だのにカルデアに召喚された私の下半身は女だった。技術顧問に相談してみても「数値的には"正常"ということになっている。何らかの干渉により"正しい霊基"が上書きされたみたいだね」と苦い顔をするばかり。
此度の限界ではこの肉体から逃れられないということらしい。再召喚については試しても無駄だとはっきり言われてしまった。数値的に正しいのであれば、2度3度繰り返しても結果は同じ──理屈は分かっても胸に込み上げる筆舌に尽くし難い感情は消えやしなかった。

それでもヒトは順応していく。例え古代の英霊でも、現代で生活すれば常識が身に付くように。
特異点を旅するにつれ、私はこの肉体に順応していった。そもサーヴァントの肉体は戦えればいい。女の部分を用いる機会など皆無。稀にある男女限定の編成には組み込まれないが、別段不便なことはなかった。……今日までは。
「なぁアーチャー、オレはお前に惚れてる。それは分かってるよな?」
そう宣うた槍兵の平坦な声、感情のない瞳。ベッドの上で詰められた距離は呼吸のひとつも相手に伝わってしまう。

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@chiko_roro カン…ボォ~イ ② 

「……」
あからさまに逸らした視線にもランサーは呆れた息を吐くだけだ。
確かに近頃、この男──腐れ縁の槍兵に言い寄られ、自室に招くようになった。厨房で食事の支度をしていれば手伝うことはないかと声を掛けられるし、模擬戦闘に付き合わされることも増えたし、レイシフト後に労わられることも少なくない。一度、理由を問うてしまったことがある。曰く「オレはオレのしたい事をしているだけだ」と。
感情を押し殺しながらも、感情を無くした訳ではない私は、彼の行為が憎からず思う者へ向ける類だと察してしまった。……有り体に言えば、絆されたというか。私の錆び付いた心に守護者風情にあるまじき感情が息を吹き返してしまっている。
だからこそだ。だからこそ、この歪な肉体が疎ましくて仕方ない。男にも女にも成りきれないこの身を彼に差し出せる訳もなく。
「オレは惚れたら抱くぞ。だんまりで見逃してやるほど枯れちゃいねぇ」
沈黙を貫く私に覆いかぶさった男は溜息と共に声帯を揺らす。耳元に落ちてきた言葉は非道とも取れるものだが、その裏には確かに戸惑いと欲があった。余裕が無いのは彼も同じらしい。

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