莉良 @bananacake

▽薄らと瞼を開ける。ぼんやりと霞む視界が一番最初に捉えたのは深い青髪と、母親に似た優しい顔。「万里くん、おはよう」喉から発せられる声は完璧に男と分かるけれど、優しく包み込んでくれるような柔らかさがある。それだけで安心感を覚えた俺はにこりと笑みを返した。「ふふ、ご機嫌だね。たくさんねんねしたから喉渇いたんじゃない?」「みるく、のむ……」「うん、じゃあ作ってきてあげるね。いい子で待てるかな?」「ばんりね、いいこでまてるよ」「えらいえらい。すぐ戻ってくるからうさぎさんと一緒に待っててね」一人は寂しいだろうからと幸の作ったぬいぐるみを渡されて、ポンポンと軽く頭を撫でる。扉の閉まる音がして足音が段々遠ざかったところで、万里はようやく息を吐き出した。これは芝居と何一つ変わらない。赤ん坊のように何も出来なくなった振りをしているけれどそれは全て紬のため。自ら望んでこんな姿を相手に晒しているわけではない。口を塞いでいたベビー用品を外すと隙間から溢れる感覚に慌てて袖口で拭う。こんなことをしている内にいつか本当に心と身体が無垢な色に染められそうな気がした。まだ大丈夫。けれど、確実に影は忍び寄っていた。