友人が言った。
「おい、今度の台風には目でなくて耳があるそうだ。」
「何、それは本当か!?」
俺は裏山にのぼり、台風に延々と文句を言った。
「バッキャロー! 去年ウチの屋根とばしやがって、ふざけんな!
おなんこなす!! おまえのカーチャンで、べ、そ……」
次の台風には口があった。ウチの上空に留まり俺への愛の言葉を
ささやき出しやがった。
「愛してるわ~ん。あなたのワイルドさにホレたわ!ねえ、出て
いらして! もっとあなたの顔を見せて……」
町は洪水状態、俺はめちゃくちゃ肩身がせまい。
だいたい、台風って女だったんか? 最近の命名方法は「アジア名」
とやらで女性名称やめたはずでは……?
「おい、どうすんだよ」と友人。
俺は弱って頭をかかえる。
何しろ今度の台風は「聞く耳をもたない」んだから。
(了)
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