マストドンでもキモいやつ流れてくるしもうオワコン過ぎ

歩いてくるのが見えました。
「なあんだ。みんな、こんな所にいたから、来なかったのね。」
ちいちゃんは、きらきらわらいだしました。わらいながら、花畑の中を走り出しました。
夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が空に、消えました。
それから何十年。町には、前よりもいっぱい家がたっています。ちいちゃんが一人でかげおくりをした所は、小さな公園になっています。
青い空の下、今日も、お兄ちゃんやちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらい声を上げて、遊んでいます。

ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。ひどくのどがかわいています。いつの間にか、太陽は、高く上がっていました。
そのとき、
「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」
というお父さんの声が、青い空からふってきました。「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」
というお母さんの声も、青い空からふってきました。ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ち上がると、たった一つのかげぼうしを見つめながら、数えだしました。
「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
いつの間にか、お父さんの低い声が、重なって聞こえだしました。
「ようっつ、いつうう、むうっつ。」
お母さんの高い声も、それに重なって聞こえだしました。
「ななあつ、やあっつ、ここのうつ。」
お兄ちゃんのわらいそうな声も、重なってきました。

「そう、おうちにもどっているのね。おばちゃん、今から帰るところよ。いっしょに行きましょうか。」
おばさんは、ちいちゃんの手をつないでくれました。二人は歩きだしました。
家は、やけ落ちてなくなっていました。
「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋。」
ちいちゃんがしゃがんでいると、おばさんがやって来て言いました。
「おかあちゃんたち、ここに帰ってくるの。」
ちいちゃんは、深くうなずきました。
「じゃあ、だいじょうぶね。あのね、おばちゃんは、今から、おばちゃんのお父さんのうちに行くからね。」
ちいちゃんは、また深くうなずきました。
その夜、ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてあるほしいいを、少し食べました。そして、こわれかかった暗いぼうくうごうの中でねむりました。
「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ。」
くもった朝が来て、昼がすぎ、また、暗い夜がきました。ちいちゃんは、ざつのうの中のほしいいを、また少しかじりました。そして、こわれかけたぼう空ごうの中でねむりました。
明るい光が顔に当たって、目がさめました。
「まぶしいな。」

「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ。」けれど、たくさんの人に追いぬかれ、
ちいちゃんは、お母さんとはぐれました。
「お母ちゃん、お母ちゃん。」
ちいちゃんはさけびました。
そのとき、知らないおじさんが言いました。
「お母ちゃんは、後から来るよ。」そのおじさんは、ちいちゃんをだいて走ってくれました。
暗い橋の下に、たくさんの人が集まっていました。ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。「お母ちゃん。」
と、ちいちゃんがさけぶと、おじさんは、
「見つかったかい、よかった、よかった。」
と下ろしてくれました。
でも、その人はお母さんでは。ありませんでした。
ちいちゃんは、ひとりぼっちになりました。ちいちゃんは、たくさんの人たちの中でねむりました。
朝になりました。町の様子は、すっかり変わっています。あちこち、けむりがのこっています。どかがうちなのか―。
「ちいちゃんじゃないの。」
という声。ふり向くと、はす向かいのうちのおばさんが立っています。
「お母ちゃんは。お兄ちゃんは。」
と、おばさんがたずねました。ちいちゃんは、なくのをやっとこらえて言いました。
「おうちのとこ。」

ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。ばんざいをしたかげおくり。かた手をあげたかげおくり。足を開いたかげおくり。いろいろなかげを空に送りました。
けれど、いくさがはげしくなって、かげおくりなどできなくなりました。この町の空にも、しょういだんやばくだんをつんだひこうきが、とんでくるようになりました。そうです。広い空は、楽しい所ではなく、とてもこわい所にかわりました。
夏のはじめのある夜、空しゅうけいほうのサイレンで、ちいちゃんたちは目がさめました。
「さあ、急いで。」
お母さんの声。
外に出ると、もう、赤い火が、あちこちに上がっていました。
お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手につないで走りました。
風の強い火でした。
「こっちに火が回るぞ。」
「川の方へにげるんだ。」
だれかがさけんでいます。
風があつくなってきました。
ほのおのうずが追いかけてきます。
お母さんは、ちいちゃんをだき上げて走りました。「お兄ちゃん、はぐれちゃだめよ。」
お兄ちゃんが転びました。
足から血が出ています。ひどいけがです。
お母さんは、お兄ちゃんをおんぶしました。

た。
「まばたきしないよ。」
ちいちゃんとお兄ちゃんが、やくそくしました。
「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ。」
と、お父さんが数えだしました。
「ようっつ、いつうつ、むうっつ。」
と、お母さんの声も重なりました。
「ななあつ、やあっつ、ここのうつ。」
ちいちゃんとお兄ちゃんも、いっしょに数えだしました。
「とお。」
目の動きといっしょに、白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました。
「すごうい。」
と、お兄ちゃんが言いました。
「すごうい。」と、ちいちゃんも言いました。
「今日の記念写真だなあ。」
と、お父さんが言いました。
次の日、お父さんは、白いたすきをかたからななめにかけ、日の丸のはたに送られて、列車に乗りました。「体の弱いお父さんまで、いくさに行かなければならないなんて。」
お母さんがぽつんと言ったのが、ちいちゃんの耳には聞こえました。

「かげおくり」って遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、お父さんでした。
出征する前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、お母さんをつれて、先祖のはかまいりに行きました。その帰り道、青い空を見上げたお父さんが、つぶやきました。
「かげおくりのよくできそうな空だなあ。」
「えっ、かげおくり。」
と、お兄ちゃんがきき返しました。
「かげおくりって、なあに。」
と、ちいちゃんもたずねました。
「十、数える間、かげぼうしをじっと見つめるのさ。十、と言ったら、空を見上げる。すると、かげぼうしがそっくり空にうつって見える。」
と、お父さんが説明しました。
「父さんや母さんが子どもの時に、よく遊んだものさ。」
「ね。今、みんなでやってみましょうよ。」
と、お母さんが横から言いました。
ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手をつなぎました。そして、みんなで、かげぼうしに目を落としました。
「まばたきしちゃ、だめよ。」
と、お母さんが注意しました。

「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
 どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
 ひとりの少女が、緋ひのマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。
(古伝説と、シルレルの詩から。)

セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯うなずき、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑ほほえみ、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
 メロスは腕に唸うなりをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
 群衆の中からも、歔欷きょきの声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧かじりついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若もし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。メロスの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉のどがつぶれて嗄しわがれた声が幽かすかに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。

「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方かたをお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」

路行く人を押しのけ、跳はねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴けとばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と颯さっとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。

私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。

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Pawoo

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