草薙はキャンプファイヤーに背を向けて暗がりへ足を向けた。 人気のない校舎裏まで来て懐から煙草を取り出す。盛大に炎を燃やし生徒の心を沸き立たせるキャンプファイヤーと違い、指先の小さな灯りから生まれる煙は敷地内禁煙を掲げる学び舎にはどうにも相応しくない。
在学中ならまだしも、卒業後も相変わらず身を潜めて喫煙場所を探しているとは。
(学生時代と何も変わってへんな)
学園を卒業し立場が生徒からOBに変わった所で結局は、何一つ変わっていないのかもしれない。
周防は相変わらず卒業の危うい学生のままだし、年齢不詳の赤部顧問は時間の経過など二十年前に捨て去ったかのように今日もロリータ服に身を包んでいる。そして…青部顧問として多忙なのだろう、準備期間中からずっと姿を見せていない「彼女」との距離もまた、あの頃と変わらない。
(めちゃくちゃ嫌われてる訳でもないんやけど、めちゃくちゃにして!って迫られるほど好かれてる訳でもないしな)
他に客が居なければ二人にしかわからない思い出話を交わし、学生時代と変わらない淡島のおかしな嗜好について軽口を叩き、バーの健全経営と風紀についての忠告を謹聴する。