158.🌸次はスパーク @aaa1990@pawoo.net

#一人アンソロ可視光線
「ほら。お食べなさいな」
　文机に、ドンと置かれた盆。その上にはガラスの器があり、果物（多分）が盛られている。
「何だ？」
「何に見えるんですか？」
　いや、だから色が見えないとよく分からないから聞いているんだよ。そういうと宗三は「桃ですよ」と素っ気なく言った。
　桃か。そう言われると、甘い匂いがする。
「短刀の子らに切ってあげたら余りましてね」
「……余ったならお前が食べればいいだろ？お前桃好きだったよな」
「何ですか。せっかく持ってきてあげたのに」
「桃好きの前で桃を頬張れないだろ」
「分かりましたよ。じゃあ、半分こしましょう」
　ほら受け取りなさい。つっけんどんにフォークを渡された。宗三は盆の端に置かれたもう一つのフォークを手にしている。
「……」
「何ですか？」
「いや」
　何だ。最初から、二人で分けて食べるつもりで持ってきているんじゃないか。
「宗三」
「何ですか？」
「心配してくれてありがとうな」
「……そんなじゃないですよ」
　宗三は少し拗ねた様な、恥ずかしさを隠す様な、よく分からない顔をした。あぁ。頬の色が見えないのが残念だ。

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面倒！！
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#一人アンソロ可視光線

　雲が流れていく様を、ぼんやりと眺めていた。
「寝ていなくていいのかい？」
　歌仙が、こちらへ向かって歩いてくる。脇に抱えている桶は洗濯用か。
「別に。傷はもう塞がっているからな」
「そのようだね」
　怪我をした腕は動くようになった。煙を吸い込んで焼けた喉も、声を出すのに不自由はない。
　だが、色彩だけが戻らない。
「なぁ、歌仙」
「うん？」
「今日の空は、青いか？」
「うーん。真っ青とは言い難いな。淡い……水色だね」
「水に色があるか？」
　ガラスに入れた時に色が付いたように見えるのは、あくまでガラスの色だ。白い磁器に入れれば、色など付いていないのが分かる。
「でも海は、青い」
「そもそも何の色だろうな、海も空も」
「……ふむ」
　白い雲の背景に、どんな色が広がっているのだろうか。普段はそんなこと考えてもいなかったのに、今日は知りたくてたまらない。
　無いものねだりか。子供のようだな。
「長谷部。君、色が見えていない方が風流なのではないか？」
　では代わって差し上げようか。そう言ったら困った顔をするのが予想できるから口には出さなかった。

　最近疲れてんだろ。しばらくアンタ休みだな。薬研はそう言って後ろ手に障子を閉めていった。
「え……？」
　突然そんなことを言われても、困る。俺から仕事を取ったら何が残るんだ？

#一人アンソロ可視光線

　目が覚めると、全てが白と灰色の世界だった。
　歌仙が全員分縫ってくれた布団の襟カバーも灰色、畳の縁も灰色、本体の鞘も、灰色と黒に見える。

　色が、ない。そう感じた。

　昨日、戦闘で重傷を負って、手入れをして頂いた。戦闘に出て、手入れを受けて、また戦闘へ赴く。今まで幾度となく繰り返されている事だが、手入れ後にこんなアクシデントが起こるのは初めてだった。
　すぐに薬研が寄越された。腹やら、目やら口の中やら、色んな所を調べられた。
「目、か。今まで聞いたことないな」
「あぁ。どうしてこんな……」
「他に不調はないか？声が出にくいとか、動悸がするとか」
「ない。色覚がないだけだ」
「ふぅん」
　検査で使った器具を、薬研が革の鞄に仕舞う。
「なぁ、この鞄は何色に見える？」
「濃い灰色」
「この湯呑は？」
「薄い灰色だ」
「濃淡は分かるんだな」
　見えないわけではないから、生活に支障が出る程ではないだろう。
「寝て起きたら治ってた、とかなら良いんだけどな」
「それなら俺っちは楽でいいな」

登録してみました( ´ ▽ ` )ﾉ