娑婆の男は文の長さが想いの深さだと盲信しているふしがあるが、そんな調子でこの人に長々と思いの丈をしたためたら、いったい次の顔合わせが何年先になるかわかったものじゃない。
「それもそうかもしれないけど、手紙には手紙で返すのがマナーだと思ったから」
「じゃあ、今夜その手紙を開いて私が返事を書くのを待ちますか? それとも直接おしゃべりします? お座敷で」
 あるいは閨で、床の上で。
 呆れまじりに尋ねてようやく、アーサーさんは自身の行動のばかばかしさに気がついたのか、ふ、とほどけるように小さく笑って、返事の代わりに立ち上がったのだった。

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「それはすまなかった。今日はなんていうか……逢えないことも覚悟してたし、手紙を預けて帰ろうと思って」
「手紙?」
 私はそこで、アーサーさんの手に小さな紙の包みのようなものがあることに気がついた。金の泊が押された封筒に、表書きは菊様。墨と筆で書いたのではない、均一に細く、整った文字だった。
「やっと返事を書けたはいいんだが、どこに差しだせばいいのかわからないから、直接持ってきたんだ」
 今度は私が目を丸くする番だった。だから今日逢えるとは思っていなかった、と言ってのけるはにかんだ口元と、どうも私の文を受け取って以来数日かけて書かれたらしい『手紙』とを、交互に見ては唖然とした。
「……話したいことがあるのなら直接会いにくればいいでしょう? 私に」
 何日もの時間を費やして慣れない日本語を紙に記す手間を思えば見世に足を運ぶほうがよっぽど簡単で単純で手っ取り早いではないか。馬鹿にまじめなこの人の実直さをまえにして、私はもはや、もう二度と文など書くまいと心に決めた。

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 あさひからおまえが揚がってくると聞いたが、具合のこともあるし、一度おまえの様子をみてから話を進めようと――親父さんのそんな話を背中越しに聞いて、迷いもせずに待合の戸を開けた。自分でも思いもよらないほどの力が入って、がたん、とけたたましく音が響いた。
「おかえりなさい」
 まとめてもいない髪が風で乱れているだろうな、と客観的に、そう思った。化粧をしていない肌は今汗ばんでいるだろう。切羽詰まった私は、きっと雅やかにも、涼やかにも見えない。せめて一息ついて、前髪くらいは手で梳いてから戸を開ければよかった思う反面、その一秒すらがもどかしいとも思えた。
「……ただいま……?」
 困惑をにじませた声色が、耳に心地よく、かなしくてうれしい。宝石のような瞳が私を写しこんでいる。
「あれ、今日は別の仕事があるって聞い……」
「誤解があったようで」
 無理やり遮って言うと、ますます困惑が匂うか細さで「そうか」とだけ返ってきた。ほかになんとも言い様がなかったのだろう。
「お約束もなく来られるとこちらもなかなか焦ります」

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 自分でもおかしくなるほど情けない声が出た。縋るような、まるで嘆くような。今あの人を引きとめてくれるなら、他の女の元に行かせずに済むのなら、有り金を全部差しだしたっていい、と思った。
 あさひを見送ってからよろめく身体を立ち上がらせ、すぐに身支度を調えた。私は遊女たちとは違って、髪をまとめる必要はないし、化粧をすることもないので、着物を着て帯を結べばいつでも座敷に揚がれる。化粧っ気がないと華がないといつもは思っていたが、今日ばかりは己の身軽さがありがたい。
 置屋を飛び出して一目散に駆け抜ける。表では目立つので裏の路を、ずいぶん滑稽な花魁道中だと嘲りながら。
 息を切らし見世先から私が飛びこんできたものだから、なにより驚いたのは親父さんだった。番台で目を丸くしてこちらを見つめていたが、私はそんなことはお構いなしで、「あの人は」とだけ短く尋ねた。咳き込むのを無理に抑えこんでいるせいで、胸がきりきりと軋む。
「待合だよ」

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「……さん、兄さん、起きてくんなんし」
 意識の彼方からささやくような声がする。遠慮がちな、それでいて急かすような。ずきずきと痛む頭にめまいに似た浮遊感が重なって、うっすらと目を開けた。あさひが私の顔をのぞき込む。身体を揺り動かされていたのだ、と少し遅れて気がつく。
「兄さん、あの人さんが来んしたえ」
 その言葉を受けて両目を見開くと同時に飛び起き上がると、木槌で頭をぶったみたいに余計にずきずき痛んだ。こめかみを片手で押さえ、食いしばった歯の隙間から息を吐く。
「親父さんはなんと? あの人を帰らせたのですか?」
「病だと正直に言って要らぬ噂が広まっても困るからと、そのことは伏せていんした。花魁は他のお客の座敷に揚がっているとお伝えして、別の遊女をつけると勧めていんしたが……」
 こめかみに手を置いたまま、ぴたりと制止して、黒目だけを動かしてあさひを見た。「……なんて?」と言おうとした声が掠れ、言葉を発するよりも先に掛け布団を引きはがし襦袢の腰紐を結い直した。
「すぐに親父さんのところに戻って、私が行くと伝えてください」
「え? でも兄さん、お体が」
「早く」

プレゼントがとてもうれしかったのでお返しにバラの花束を贈ったらめちゃめちゃ喜ばれ、その一ヶ月後くらいにたまたま部屋にあげてもらったら花瓶にバラがキレイに活けてあって
「これまさかあのバラ?」
「はい」
「なんでこんな長持ちしてんの!?」
「え…日持ちするように環境に気をつかって…あと延命剤もいろいろ」
「延命剤!?」
「延命剤は卸のいい業者さんを知ってるんですよ」
「おまえズルいぞそれ」
「(ズルい…??)」

ってやってたらかわいい(し花にかけてはグーグル先生より恋人を頼ればよかったことに今さら気づいてたらかわいい)

「一応仕事柄花言葉なんかもそこそこ(※謙遜)知ってるので、アーサーさんのことを想って選びました」
って出してきたのが『夢でもあなたを想う』とかその系の花束で
「あ…ありがとう」
「すみません、この期に及んで花って、ひとりよがりかとも想ったんですけど…!」
「いや本当にうれしい。ありがとう」
って受け取って帰った後「花束 長持ちさせる方法」とかでググってるのが彼だから…

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「あの…お誕生日プレゼントなんですけど、きっと欲しいものや必要なものはご自身でご用意できるだろうなと思って…それにへたに私が贈ったものだと簡単に処分できなくて困るんじゃないかと…それで芸がないのですけれどお花を用意したんです。お花なら枯れたら捨てるのはやむを得ないでしょう?処分するときの罪悪感も減らせるのではないかと思いまして。花束は専門外なのでフラワーアレンジの先生に習って、こんな感じに仕上がりました」
「(先生も困っただろうな本田流の家元が初心者面してやってきて)」

「あっ!違った、悪い、間違えた」
「いや…大丈夫、先生に聞いてみる。これでいいかもしれないし、新しいプリントくれるかも」
「パパが直接先生に話すよ、セージはなにも悪くないんだ」

ってはんことペンを持ってセージくんの中学だか高校だかに出向く映スタ…書類はこれで大丈夫ですって言われるけど「一応書き直します」って新しいプリントにちゃんと署名してはんこも押して「こちらは処分していただいていいですか」と低姿勢に先生に頼むけど映画スターのサイン入りプリントとかシュレッダーにクソかけづらい………

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本田さんが出張だか研修だか社員旅行だかで一泊以上不在のときに映スタがセージくんと二人で家でお留守番をしていて、本当は朝クッソ弱いのにがんばって起きて、
セージくんが「あ、これ今日中に提出だった」(←保護者の署名がいる書類)って気づいて寝起きの映スタに「パパここにサインくれない?」っつってプリント渡したらパパが寝起きのぼーっとした頭で普通にファンにするようなこなれてて派手なサインをしてしまう話

「私この世界に足を踏み入れてアーサーさんと個人契約を交わしてから、アーサー・カークランドとクィディッチに人生を捧げるって決めたんです。よくファルコンズのチームコーチを担いながら他のチームの選手の個人トレーニングに携わるにあたって、どうやって気持ちを切り替えていますかとか、どちらかに肩入れしないためにどんなことを心がけていますかとか取材で聞かれることがあるんですけど、私の中でその二つの両立はなにも難しいことではありません。アーサーさんはいつも『誰も俺に追いつけなくなるか、俺が誰も追いつけなくなったらクィディッチをやめる』と言っています。それゆえに私は彼を育て、彼のライバルたちを鍛えなければいけません」
「じゃあ万が一だけどファルコンズ以外のチームに天才的な選手が集まってめちゃくちゃ強くなってとても太刀打ちできないくらい実力差ができてしまったらそのチームの選手の指導はしなくなるってこと?」
「は?そのときはアーサーさんを潔く引退させますよ」

プロの仕事

「グローブのグリップがきつすぎるって言ってただろ」
「把持力が強くなって、逆にグリップが強いグローブだと投げるときに負担がかかるって私が分析したやつですか」
「そう。それで新しいのに換えようと思ってスポンサーの担当者と会うことになったんだが」
「長らく巷で『アーサー・カークランドモデル』と呼ばれてきたグローブもついに代替わりなんですね」
「それでおまえにも同席してほしいんだ」
「私ですか?構いませんけど、いいアドバイスができるかどうか…」
「いやどんな些細な意見でも構わないって商品開発部の担当が言ってたぞ」
「…はい?」
「ついに『本田菊モデル』ができるな」

Q.先日試合中に肩をぶつけたことでコーチから交代を命じられましたが、そのことに関して不満や不信感はありませんでしたか

「あいつと組んだばかりの頃は『まだ飛べるのに』と思うこともあったが、一回突風に煽られて観覧席の屋根に突っ込んで腕を派手にぶつけたとき、あいつが『彼のメディカルコーチです』ってすぐに飛んできてその場で処置して『よかった、折れたのがほうきじゃなくて。私骨は治せますがほうきは直せませんから』ってたった五分の休憩を挟んで俺を飛ばせやがって、それ以来休めと言われればおとなしく休むことにしてる」

あいつはよっぽどのことじゃないと休めなんて言わない…

なんなんだ?その映画の世界に行けば本田菊似の本田菊を呼べるのか?60分500万か!?っていうか勉強中ってなんの!?」
「落ちついてください」

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「今度映画の主演が決まりまして、今までにないビターな役を引き受けることになったんです。男性版のデリバリーヘルス?みたいな、そういうサービスありきの出張ホストというか…その業界に詳しくないので勉強中なんですが、そういう仕事で生計をたてる少年の話で…」
「その役柄の是非は置いといて、俺は今まで彼女がいなかったときになんかムラムラするからとりあえず手っ取り早くヌいてもらうか(※キクをオカズにすることもまああるが、キクを『とりあえず手っ取り早くヌく』ためのオカズにするのは失礼すぎるのでこういうときには使わない)とデリヘルのサイトで嬢のプロフを流し読みして『本田菊似とよく言われます☆清楚感と透明感が売りです♡』的なことを書かれてるのをめざとく見つけては『バカか?キクみたいな清楚感と透明感をもってしてヘルスなんかやるかよ名誉毀損で訴えるぞ(?)』『本田菊似なんて自分でハードルあげてどうすんだどんな美人が来てもブスに見えんだろ』『どの程度の顔面を持ってたら自分をキク似なんておこがましいこと言えるわけ?』『本当にキクに似てるなら60分20万取れよキクはそんなに安くねえ』ってブチ切れてたんだけど、

「俺たち休戦協定を結んだよなあ。それでおまえの船が襲われているのをみてごく紳士的に援護して、海に投げだされた下っ端のクソどもを救助までしようとしたのに、どうしてこっちが攻撃を受けなきゃいけない。アーサー・カークランドの署名はそこまで軽んじられるようになったのか?それとも協定を結んだことを部下に周知徹底することすらままならないほどの無能と俺は協商を結んじまったのか?」
「………」
「まあ一番の痛手はプライドじゃない。うちのが負傷したってことだ」
「……役職はなんだ」
「はあ?」
「役職に見合った相応の保障をさせてもらう。そういうルールだろ。下っ端と船長に同じ額は出せない」
「そうだな。しかしどう答えていいのかわからない。今回怪我をしたこの男は俺の右腕で、用心棒でもあるし、副船長を任せてあって、天候も海図も読める。船医の補佐をすることもあるし人手が足りなければ厨房にも入る」
「テメエ俺にふっかける気か?」
「…そして、俺の恋人だ。なんで俺がこんなにキレてるか、物わかりの悪いおまえの船のクソ犬どもがこの俺になにをしてくれたかわかってもらえたか?」

マジギレ船長もすきです

「もう別れましょう。船を下ります」
「…そうか」
「他になにか言うことは?」
「じゃあ言わせてもらうが、俺との約束を忘れたのか?」
「死ぬまでそばにいるって話?」
「そう。それからもしも別れ話をしたくなったら」
「『俺の脳天をぶち抜いて亡骸に向かって愛してないって言え』?」
「なんだ覚えてたのか。おかしいな。おまえは約束を守る男で、ややもすれば俺は既に命がないはずなんだが」
「………」
「趣味の悪い冗談だな」
「うろたえさせたかったのに」
「今すぐ俺にひざまずいて平然とフェラでもしたほうがよっぽどお望み通りになるよ」
「じゃあそうする」

友達と買いものしてるときに「悪い、ちょっとここ寄っていい?」ってデパコスのフロアに寄ってって
「ホワイトデー?彼女いたっけ?」
「うん、まあ(彼女じゃねーけど)」
「化粧品はハードル高くねえ?」
「いやハンドクリームでもないかなって。花屋やってんだよ。結構手荒れるから」
「花屋の彼女なんておまえそれ絶対かわいいだろ…見た目に釣られんのやめろよ、また痛い目見るぞ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫だよって…おまえ惚れこむと周り見えないから」
「今度は大丈夫」
って言ってるアーサーさんの横顔に一点のくもりもないのが本当に幸せなことだと思う

(という花屋の恋人の話)

「アーサーがあなたを連れてきたとき、私すごくうれしかったのよ。はじめて恋人を紹介してくれたというのもうれしかったし、お見合いがうまくいったようでほっとしたのもあるけれど、なによりもあの子、あなたのためにドアをすっと開けてあげたでしょう。当たり前みたいに」
「あ…でも、潔癖症を完全に克服したわけではないんです。私もさすがにそこまでは」
「いいえ、そうじゃないわ。アーサーにとってドアのノブなんて驚異そのものでしょう。そんな恐るべきものを、あなたに触れさせないようにしたの。アーサーがそんな風に思える相手に巡り会えたことが、私、本当にうれしかった」

潔癖症のおかあさま

「それで、おまえはどんな道具がいい?」
「私は…そうですねえ、グルメテーブルかけ…」
「言うと思った。スシ食いにいく?このあと。全員暇だろ」
「そうですね、あとで皆さんに声をかけてみましょう」

(タイムマシーンと言わないだけの分別が、私にもあるのです)

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